あくまでも噂話68「他の人に見えないものが見える」

「他の人に見えないものが見える」ということを言うと、「怖い話ですか」と切り返されることがあります。まるで漫才のやり取りのようなことが私の身には実際に起こっていて、そのおかげ(せいではなくて)で、発達障害の視覚過敏の子どもの苦しさが理解できています。この経験が、子どもたちの支援にも役立っています。
「他の人に見えないものが見える」というのは閃輝暗点のことです。これは閃輝と暗点があって、閃輝は視界にギザギザやキラキラとした光の波が現れるもので、もう一つの暗点は視界が暗くなって見えにくくなる状態です。私の場合は閃輝のほうが起こっていて、視界にモザイクが現れて、視界の一部が見えなくなってしまいます。
頭を何かにぶつけると、星のようなものが回って見えることがあります。実際に星のようなものが回っているわけでもなくて、見えているわけでもないのですが、閃輝暗点が起こる原因は判明していて、後頭葉の血流の低下です。目で見たものは電気信号として後頭葉に伝わり、ここで画像化が行われています。この後頭葉の血流が低下して、その部分の脳細胞に送られる酸素が不足すると画像化が充分に行われなくなります。
通常は15分くらいで解消されるのですが、私の場合には30分以上も続きます。打ち合わせや会話の最中、ずっと充分に見えていない状態ということもあります。前触れもなく急に現れるために自動車の運転は危ないので、まだそれほどの年齢でもないのに運転免許証を返納しました。返納の理由を警察署で説明しても理解してもらえなくて大変だったのですが、交通事故の加害者になることだけは避けたかったということです。
モザイクが現れたときには、文字を正常に見ることができないので、講演やセミナーでは何も見なくても続けられるように、“読めばわかる”テキストを作成して渡しています。私の講師としての時間は短くて2時間、長いと6時間以上にもなるので、30分くらいの見えにくい(場合によっては見えない)状態なら回復は可能です。その短い時間、それも起こるか起こらないかわからないことのために、話をする部分をほぼ文章化するのは時間がかかります。
そんな長々とした講習テキストを作っているから目に症状が出るのではないか、という人もいるのですが、講習テキストは作ってしまえば後は使うだけで、苦労は一瞬です。この講習テキストがあれば、他の方も講師ができるので、伝えたい内容を多くの方に伝えてほしいという思いの実現には必要なものとなっています。
発達障害の視覚過敏では、白い紙が眩しい、弱い照明であっても目を強く刺激するということがあって、見えにくさに苦しんでいる子どもも少なくありません。中には視覚情報処理の異常があって、文字がかすむ、文字がゆがむ、二重に見える、大きさが変わる、動いて見える、左右が逆転する鏡文字に見えるといったことがあります。他の人にはわからないことなので、理解してもらえないのですが、こんな困難さを抱えている子どもを理解してあげられるのも、閃輝暗点のおかげです。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)