健康情報12 糖尿病関連腎臓病が悪化する負のループ

糖尿病の患者は全世界で増加しています。糖尿病の患者は糖尿病に関連する腎臓病を高頻度に併発していて、腎不全が進行すると最終的に人工透析や腎移植が必要となります。

日本では急速な高齢化に伴い、腎不全の患者数も増えていて、人工透析を必要とする腎不全の原因となる疾患の第1位である糖尿病性腎症の対策は急務を要する状況です。

患者の身体的な負担だけでなく、国民医療費への影響も大きいだけに、糖尿病性腎症の実態解明と治療法の進歩が強く求められてきました。

こういった研究を実施するためには、動物実験が先に行われますが、動物では糖尿病関連腎臓病の再現が難しく、それもあって糖尿病関連腎臓病の病態の多くは不明でした。

京都府立医科大学大学院医学研究科の研究グループは、糖尿病によって引き起こされる腎臓病が進行した場合に、その周囲に炎症を誘導する細胞群のFR-PTCの割合が腎不全に進展する予測因子であることを確認して、血糖降下薬のSGLT2阻害薬がFR-PTCの発生を抑制することを証明して発表しました。

FR-PTCは、修復不全尿細管のことで、傷害された尿細管の修復が不十分な場合には、周囲に炎症を起こす物質を分泌して、腎不全を進行させることが知られています。

SGLT2阻害薬は、SGLT2(腎臓に存在する尿に漏れ出たブドウ糖とナトリウムを再び身体に戻す働きを持つタンパク質)を阻害することで、尿にブドウ糖とナトリウムを排泄させ、血糖値を低下させる作用があります。

腎臓が障害を受けると尿の通り道の尿細管の細胞の一部が脱落して、その後に生き残った細胞が再生します。そのときに修復が不完全な組織では特殊な細胞であるFR-PTCが出現することが動物実験で明らかにされています。今回の実験は、糖尿病患者の腎臓の組織と、マウスを用いて、機序(作用メカニズム)の解明が行われました。

SGLT2阻害薬は、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化に起因する疾患の発症を抑制するだけでなく、尿蛋白の減少や腎機能の悪化を防ぐなどの糖尿病関連腎臓病の進行を予防する効果も認められています。

そこでSGLT2阻害薬の一つであるルセオグリフロジンを進行した糖尿病関連腎臓病マウスを用いて、FR-PTCに及ぼす影響が検討されました。

その結果、糖尿病関連腎臓病の腎組織ではFR-PTCが出現して、その割合が高いほど腎不全が進行していることが明らかになりました。

進行した糖尿病関連腎臓病のモデルマウスでは、組織の酸素不足がFR-PTCを誘導することが解明されました。

また、SGLT2阻害薬のルセオグリフロジンの投与によって腎臓内のFR-PTCが低下して、腎障害の進行が抑制されていました。

これらの結果から、腎不全が進行すると残った尿細管に過剰な負担がかかるために、酸素消費が進んで腎臓組織での酸素不足が起こり、尿細管の障害によってFR-PTCが出現し、さらに腎障害が進展するという負のループを起こすことが明らかにされました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕