育児ストレスは、母親の精神疾患(うつ病や不安障害など)や児童虐待のリスクを高める主因子の一つです。産後うつの症状がみられる母親は28.7%にのぼるとの調査データもあります。
母親の精神疾患リスクを予防・緩和するには、育児ストレスを起こす要因を明らかにするだけでなく、心身のストレスを回復させる力、「レジリエンス」に着目する視点も必要です。
レジリエンスは、困難な状況に適応していく能力や、そのプロセスを指し、心身の疾患要望やQOLの向上の観点からも大きな注目を集めています。
後者については。「腸内細菌叢―腸―脳相関」の考え方が大きな注目を集めています。特に腸内細菌叢は、身体疾患のみならず精神疾患にも関連することが、ヒトの成人を対象とした研究によって示されています。
また、過度なストレスやレジリエンスの脆弱性を早期に検出しうるバイオマーカーとして、自律神経系や身体運動機能を指標とした評価法の開発も進められています。しかし、育児にまつわるストレスやレジリエンスが腸内細菌叢、さらには自律神経系や身体運動機能と、どのように関連しているかはわかっていませんでした。
京都大学教育学研究科、大阪大学、サイキンソーなどの共同研究グループは、0〜4歳の乳幼児を養育中の母親が抱える育児ストレスとレジリエンスが、腸内細菌叢や自律神経系、身体運動機能の関連を検証しました。
研究グループは、2つの研究を行いました。
研究1は、日本の保育園、幼稚園、こども園の0〜4歳児を養育中の母親339名を対象に、育児ストレスと身体状態、腸内細菌叢との関連を検討しました。参加者は全員、身体疾患や精神疾患のない母親でした。
その結果、65名(19.17%)の母親は育児ストレスが高い状態であることが示されました。高リスクの母親は低リスクの母親に比べて睡眠の質が低く、身体状態が悪い(消化機能や血液循環の不良、身体的抑うつ症状、女性ホルモン機能の低下)と回答しました。
さらに、高リスクの母親は低リスクの母親に比べて、腸内細菌の多様性も低いことがわかりました。そして、育児ストレスの高い母親は、腸内細菌叢のバランスが乱れた状態にある可能性が示されました。
研究2では、初産で生後3〜6か月の乳児を養育中の母親27名を対象としました。安静時の心電図を計測して、自律神経活動(交感神経活動、迷走神経活動)を評価しました。身体機能は体組成の評価、握力、下肢の歩幅、歩行速度が評価され、唾液からオキシトシンホルモン解析が実施されました。さらに、腸内細菌叢の組成も詳細に調べられました。
その結果、27名のうち13名(40.74%)の母親の身体運動機能は、筋骨格筋量がサルコペニアの医学的診断基準値よりも低い状態にありました。握力、歩幅、歩行速度についても、大半の参加者が同年齢女性で示されている基準値よりも低く、産後半年が経過した時点でも筋肉量や運動機能が低い状態にあることがわかりました。
この結果、育児ストレスの高い母親は身体機能も脆弱な状態にあり、腸内細菌叢の多様性も低いことが明らかになりました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕