健康情報6 こころの不調と神経伝達物質の関連

思春期の複数の時点では、こころの不調と脳内の神経伝達物質機能と関連があることが指摘され、環境による感情・社会的ストレスと脳内の神経伝達物質機能との解明が求められてきました。

東京大学国際高等部研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野、東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの研究グループは、思春期児を対象としたコホート研究の東京ティーンコホート研究に参加した約3000名のうち200名強を対象として研究を実施しました。

そして、MRI(磁気共鳴画像法)によるMRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)の撮像を実施して、思春期の早期の2時点(時点1:平均11.5歳、時点2:平均13.6歳)で前部帯状回のグルタミン酸機能が低いと、こころの不調が多くなることを明らかにしました。

前部帯状回は、脳の前側にある情動処理や社会性、認知機能に関与する部位です。
グルタミン酸は脳内に存在する代表的な興奮性の神経伝達物質で、知性、情動、意思を調節する物質の一つで、グルタミン酸機能の異常がこころの不調になることが知られています。

また、2時点の変化(差)として前部帯状回のグルタミン酸機能がより低くなると、こころの不調がより多くなることを見出しています。

さらに前部帯状回のグルタミン酸機能は、いじめ被害があると低く、いじめ被害を受けた児童では援助を求める傾向がある場合には高いことが明らかにされました。
これまでの研究では統合失調症の早期段階において前部帯状回のグルタミン酸機能の低下が報告されていました。

しかし、統合失調症のリスクが高い群における前部帯状回のグルタミン酸機能の変化や、思春期においてよく経験される環境による感情・社会的ストレスが前部帯状回のグルタミン酸機能に及ぼす影響は不明でした。

思春期における精神疾患の体験(幻覚、妄想、思考形式の障害など)は、統合失調症の発症リスク因子であることが知られています。

この研究成果は、思春期のこころの不調の背景には脳機能の変化があり、その変化に、いじめ被害という社会的ストレスが関与することから、いじめの予防的な対策や精神保健支援の重要性を示唆しています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕