口の動き見え方と言葉の伝達が一致しない

目に見える口の動きと耳に聞こえる言葉にズレを感じるという症状は、患者数としては、それほど多くはないのですが、年を重ねてから現れるようになると、これまでの長い年月で、まったく経験がないことを見るために、生活に特に不便はなくても気分がよい状態ではなく、気にしないようにしてもストレスはたまる一方となります。それを62歳を過ぎてから実体験することになった日本メディカルダイエット支援機構の理事長は、「そのうち慣れるのでは、と思っていたけれど、目と耳の感覚が特に衰えているわけではないので他人との会話がきつい」と話します。
そんなことが、なぜ起こるのかということについては以前にも触れましたが、もともと目からの情報と耳からの情報は脳内の伝達ルートと神経伝達のスピードの違いから、0.5秒ほど耳からの情報が早くなっています。このズレを脳はうまく調整して、口の動きと言葉が合っているように感じさせているのです。脳がちゃんと調整していればよいのですが、加齢や脳機能の低下があるとズレが修正されずに口の動きが0.5秒ほど遅れるため、いっこく堂の腹話術のように感じて、これがいつも続くので奇妙な感じで過ごすことになります。つまり、本来の姿が見えるようになっているわけですが、そんな悠長なことは言っていられないというのが本人の感想です。
目で見えたものを脳が調整して正常に見せているということでは緑内障があげられます。片目が緑内障によって視界の一部が欠けるようになっても、もう一方の目が正常に見えていると、脳の中で見えている画像を見えていない部分に当てはめるようになって、両目で見ている分には不自由に感じないことがあります。そのため、緑内障の検査では片目ずつ視界の広さの違いを調べています。
視覚と聴覚のズレは片目を閉じたから、片耳をふさいだからといって変化が出るようなものではないので、徐々に変化をしていると、まず気づくことはありません。当機構の理事長が自分の状態を隠さずに話すようになってから、「実は自分も同じ」と話してくれる方が出てきました。その方は、耳で聞こえた言葉と口の動きのズレを感じるようになってから、自分の目が変になったのかと思って、病院の眼科に行ったそうですが、該当する症状がないことから、精神科を受診することをすすめられたそうです。精神科でも該当することがなく、今度は認知症などを扱う脳神経科に行くことをすすめられたタイミングで理事長に話をする機会があったということです。
この視覚と聴覚のズレについては、眼科でも耳鼻咽喉科でも精神科でもなく、あえて言うなら脳神経科ということになるのでしょうが、原因となっていることがわかり、どこに問題があるのかまでは研究が始められているものの、根本的に治療する方法はないとのことです。
若い人だと他人とのコミュニケーションにも、仕事にも影響を与えることですが、今どきは他人と深く関わらないでもできる仕事も増えているので、口の動きと耳からの情報がズレていたとしても生きていくのに困らない時代になったとの認識です。ましてや高齢の者となると、もっと気にせずに生きていけるので、不便を感じる状態になったのを“これ幸い”と思って、これまでの生活パターンを変えてみるのもよい、という話をして、お互いに納得したということでした。