忘れる脳力6 心を亡くすような体験

忘れるというのは、心の中から記憶が失われることを指していて、その漢字の「忘」は心と亡を組み合わせた形になっています。

心がない行動、まるで心が亡くなったような態度の人を表すときに使われることもあるのですが、漢字の意味としては精神的なことではなくて、記憶が失われることを指しています。

忘は自分のせいで忘れることを意味していて、うっかりして忘れること、多くのことに紛れて忘れることを意味しています。また、心の中にあったことを忘れるという意味もあり、記憶していたことを忘れる、嫌なことを忘れるということを表すときに使われます。

このコラムのテーマの「忘れる脳力」は、最後の「嫌なことを忘れる」という意味合いで使っています。

記憶が失われるといっても段階があって、忘れたということを覚えているなら、まだ物忘れの状態ですが、忘れたことを忘れるという状態になると認知症も疑われます。その手前に軽度認知障害という状態があり、これは認知症に進むことがあれば、そのままの状態が続くということもなります。

条件が整うと軽度認知障害の以前、通常は“普通の状態”と呼ばれる段階に戻ることもできます。この軽度認知障害については、別の機会に説明します。

忙しいことがあると、大切なことを忘れてしまうということがあります。「忙」の偏(左側)の「忄」(りっしんべん)は心に何か寄り添う、外的要因で変化することを指しています。

忙しいと忘れるのは、脳にはキャパシティがあり、気を取られるようなことがあると、肝心なことを覚えておけないようになります。このことについては、「忘れる脳力3」で説明しました。

忘と忙を区別するために、忘は下に心がついていることから「したごころ」とも呼ばれています。何かの下心があると、話の方向を自分が望むように誘導しようという気持ちが先に立って、周囲の話を聞いていない、聞いているのに覚えていない、さらに肝心なことを忘れてしまっているということもあり、それこそ「下心のために忘れる」ということになるのです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕