健康寿命の延伸を目指して、まずは簡単な運動としてウォーキングをすすめている自治体が増えています。体力や体の状態に合わせて一定の運動負荷を与えることを目指して、30秒間で歩く距離を示したり、ウォーキングコースを設けて歩く機会を増やすようにしたりと、さまざまな方法がチャレンジされていますが、こういったことがテレビや雑誌などに取り上げられることも増えています。それを見るたびに気になることがあり、メディアに取材を受けたときにも話をしているのですが、番組や記事には私たちが“間違った方法”と言っていることが、間違いのまま取り上げられています。
それは歩くときの腕の振り方です。自治体や企業のウォーキングのチラシやポスターの写真やイラストを見ると、肘を曲げ、元気に前に振って歩く姿が取り上げられています。これは膝関節によいサプリメントのテレビコマーシャルに登場するタレントなども同じなのですが、そんな歩き方をしたら、歩くときに言われる歩幅を広げて、勢いよく歩くということができなくなります。テレビコマーシャルで、なぜ歩きにくい方法をやっているのか気になりながら商品を見たら、そこに描かれていたイラストが肘を曲げて、前に振って歩いている姿でした。
走るときに肘を曲げるのは腕の振りを早くして、早く走るためのフォームです。振り子と同じで、肘を曲げると振り幅が小さくなり、左右の足を早く前後できるようになります。それとは逆に腕を伸ばすと腕を大きく、走るときよりもゆっくりと振ることができるようになり、腕の振り幅の大きさに合わせるように歩幅も広がります。歩くときの注意として、かかとから着くようにして、足の裏をつけていき、第一趾(親指)で力強く蹴るように前に進む、といった説明がされています。この歩き方をするためには歩幅を広げる必要があり、それには腕を大きく前後に振るように必要があります。
高齢者に歩くことがすすめられる一つの理由に、足腰の筋肉を鍛えて、もしくは筋力を落とさないようにして転倒を防止することがあげられます。足腰の筋肉が強くても、足の指が上がらずに床に引っかかって、つまずき、転倒することがあります。転倒して大腿骨を骨折したら、高齢者の場合には、そのまま寝たきりにもつながってしまいます。
健康寿命というのは、寝たきりにならず、自由に動ける期間のことですが、それを目指して歩いたのに転倒してしまったら逆の結果にもなりかねません。足先が引っかかることがないように正しい歩き方をすすめるべき、ということは必ず言っているのに、肘を曲げて前で勢いよく振るのが見た目もよいのか、なかなか取り上げてもらえません。
それでもメディアから取材があるたびに、言い続けていきます。