糖尿病を改善するためには食事療法とともに運動をするように医師などから指導されます。糖尿病は血糖値が上昇しすぎるために血管が傷んでいく病気ですが、血管の変化は徐々に進んでいくので初期段階では気づきにくいのが特徴です。そして、合併症の網膜症、腎症、神経障害が起こらなければ、糖尿病でないのと同じように生活することも可能です。
糖尿病は血糖値を降下させる医薬品を使えば治療できるわけではなく、しっかりとした食事療法をして、運動も続けているうえで医薬品を使わなければ効果は出にくくなっています。そこで血糖値が上昇した人には運動をするように指導されます。よく言われるのが、「適度な運動」です。わざわざ適度と言うのは、無理をして身体を傷めないようにという意味が込められています。糖尿病は、いわば血管が年齢以上に老化していく状態で、運動によって血流が高まり、血圧が高まることがあると、さらに血管を傷める可能性があります。
傷める可能性があるのは血管だけでなく、高齢者の場合には膝を傷める可能性があります。“適度”という言葉が付け加えられていても、過去にスポーツをしたことがある人は、そのときから何年経っているか、どれほど体力が落ちているかを考えずに、いきなり走ったりすることがあります。走らなくても、運動量が大きく減っている人が歩く時間を長くすると膝に負担がかかり、膝を傷めることがあります。そして、膝が痛くなったために充分に歩けなくなり、運動不足から血糖値が上昇するということにもなりかねません。そこで、私たちは身体の状態に合わせた運動プログラムを提供して、身体の状態を見ながら運動量を変化させていく方法を実施しています。そして、できるだけ膝に負担をかけない歩き方、ポールを使ったノルディックスタイルのウォーキングもすすめています。
もう一つ運動によって血糖値が上昇した例があります。これは直接的な関連ではないのですが、ありがちな話です。運動をするときには充分な水分補給を指導しています。運動中には体液と同じような中身であるスポーツ飲料をすすめることがあります。汗で出るのは水分だけでなく、水分とともに塩分やミネラルも失われます。その失われるものを補給すると同時に、運動に必要なエネルギー源の糖質やアミノ酸も補給しようというのがスポーツ飲料です。
ある有名なスポーツ飲料は、病院で使われる点滴から生まれたもので、点滴と同様にブドウ糖が多く含まれています。血液中のブドウ糖は血糖と呼ばれます。血糖値は血液中のブドウ糖の値(量)なので、スポーツ飲料を飲むと血糖値は上昇します。上昇しても運動でブドウ糖は効果的に使われ、エネルギーを作り出してくれるので、血糖値の上昇の心配をすることはないわけです。そんなスポーツ飲料を、運動をするときだけでなく、寝ている間にも汗をかくからといって、寝る前や風呂上がりに飲んでいる人がいました。
糖尿病になると甘いものが制限されますが、スポーツ飲料はブドウ糖が豊富なので、おいしく飲めます。そのために寝る前にスポーツ飲料を飲んで、血糖値が上昇しすぎて、かえって糖尿病を悪化させた人がいたというわけです。