2020年に高齢化率30%に達することが予測される日本は、それから30年後の2050年には高齢化率40%の超高齢社会に突入すると予測されています。中国の高齢社会が世界の経済に大きな影響を与えることが懸念されていますが、その中国は30%の高齢社会に達するのも2050年と予測されています。中国の高齢対策プロジェクトに参加しているアドバイザーから「中国は金もある、土地もある、人もいる。日本に期待するのは高齢社会に対応するソフトだけ」と言われたことがあります。
中国の大病院は日本と遜色がない医療機器があり、その操作を熟知した技術スタッフもいても、医学知識が高齢の人たちに完全に対応できるところまでは至っていません。個々の施設の対応ではなく、施設がある高齢地域ごとの対応が大きな課題となっています。
その対応といっても、数多くの高齢者が暮らす地域では、従来の医療と福祉ではこなすことができなくなっています。自宅で、自分たちが暮らす地域で、全住民の健康度を高めて、健康寿命を延ばし、医療と介護の負担を全体的に減らしていくことが強く求められています。そのために地域の健康づくりのリーダーを育成して、限られた専門家に頼るのではなしに地域住民が知識を持って当たっていく“地産地消型”活動が注目されています。具体的には、健康づくりに関する資格認定です。資格認定教育によって地域ごとに先生(リーダー)がいて、各地で会長・役員になって活動することを目指しています。
地域の健康づくり施設として中国の方々に注目され、日本で見学が増えているのは温泉施設です。温泉といっても入浴に簡単な食事が提供されるレベルのものではなく、スパランド、健康ランドのような滞在して楽しみ、その中にある健康に関わるサービスやショップ、レジャーなどを楽しみにして何度も通える施設です。そういった施設が各地の大都市部に、大規模なものが計画されています。
日本にはスパランドは増えてきました。しかし、その多くはファミリー層を狙ったもので、高齢者に特に優しい施設と内容ではありません。中国側が日本でモデルとして望んでいるのは、高齢化率が高くて、高齢者へのサービス対応が進んでいるハイレベルの施設ですが、高齢化率が高い地域では、いわゆる“ひなびた”施設が多くて、ホテルのようなサービスは望みにくくなっています。
温泉ホテルであって、中国にサービスのモデルとして導入したくなるようなところで、周辺に健康づくりができる施設と人材がいて、しかも高齢化率が40%になっても自治体として高齢化対策に真剣に取り組んでいて、しっかりと学べるとなると、ごくごく限られてきます。限られているものの、ないわけではありません。
今は健康寿命延伸への取り組みが途中であっても、完成を目指して頑張っているところとして海外に紹介できるのは岡山県和気郡和気町です。和気郡は現在では和気町だけです。以前は備前町、三石町が合併して備前市となり、これに日生町、吉永町が合併して離れて和気町と佐伯町が残りました。この両町が平成17年に合併して現在の和気町となりました。
両町の合併によって健康づくり、観光、文化、物産などの施設がすべて揃いました。町内には廃線を活用したウォーキング・サイクリング専用道(34km)のメインロードが通っていて、過去に私鉄が走っていたところだけに駅前(JR山陽線)から温泉ホテル、運動施設、病院、学校、福祉施設の近くを通っています。住民のための買い物ができる施設も揃い、高齢化率がもうじき40%に達しようというのに“元気に頑張っている町”です。
それぞれの施設を見学するだけでなく、施設の結びつき、活用のされ方、それらを活かした健康づくり活動、子供への教育支援までを全体的に見てほしいのです。