ATP(アデノシン三リン酸)から変化したAMP(アデノシン一リン酸)は魚の旨味成分ということを紹介したところ、当方からエネルギー代謝によって変化したエネルギー物質だと繰り返し聞かされてきたメディアの方々から、すぐに複数の反応がありました。反応は二つに大きく分かれていて、一つはエネルギー物質が旨味成分なんて本当か、というものです。もう一つはATPが多いとおいしい魚になるのか、という反応でした。これは本当の話なので、エネルギーとおいしさの関係について進めることにします。
ATPからリン酸が一つ離れるとADP(アデノシン二リン酸)になり、このときにエネルギーが発生します。ちなみに発生するエネルギー量は人間ではブドウ糖1分子当たり1.54kcalとされています。ADPからリン酸が一つ離れるとAMPとなります。AMPが体内に増えるとエネルギー不足になった結果であることから、エネルギーを多く作り出すように細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアが拡大していきます。これによってエネルギー源(魚ではエサ)を効率的にエネルギー(ATP)に変えていけるようになります。
マグロやカツオのように長い距離を勢いよく泳ぐ大型魚は酸素も多く必要で、エネルギー源をミトコンドリアの中で燃焼させてATPを作り出します。その結果としてAMPが増え、さらに変化してIMPになります。AMPは旨味成分のアデニル酸、IMPはイノシン酸です。
活動が盛んな魚はアデニル酸とイノシン酸が多く、採られて死んだ後には酵素の働きによって旨味成分が増えていくので、当然おいしくなります。
赤身魚の赤みのある身の部分は酸素を多く蓄えるミオグロビンが多いことと、ミトコンドリアが多いことによって赤い色となっています。人間の場合には赤筋は持久力の筋肉で、有酸素運動によって有効に使われるので、多くのATPが作られ、AMPも作られます。それと同じで、赤身魚も旨味成分が多いということです。
では、白身魚はATPが少ないのかというと、そんなことはなくて、あまり動かない無酸素運動でもATPは作られます。その量は10分の1以下です。しかし、白身魚は普段はあまり動かず、エサを採るときや敵から逃げるときには急に激しく動くことができます。一気にパワーを発揮できる白筋と同じです。
大事なときのために貯めておいたATPがAMPになり、IMPになります。全体の量からいうと少ない白身魚ですが、死んでから腐るまでの間に熟成される形で旨味成分が増えていきます。生きているときの旨味成分の多い少ないかが注目されがちですが、熟成期間の旨味成分の増加が大切なので、白身魚は食べるタイミングが重要になってきます。