健康あない人4 メンタルは鍛えるのか保つのか

東京にいたときに、出入りをしていた厚生労働省の部局は健康に関わるところだったのですが、出身が臨床栄養、スポーツ科学であったことから、精神医療に関わる部門とは距離がありました。栄養も運動も身体の健康だけでなくて、“心身の健康”と言われていて、精神的、心理的なことが身体の健康に影響することは感覚としては知っていました。
精神医療に関わるところと巡り会い、そのことを真剣に考えるようになったのは、仕事で関係した医師のグループが「日本メンタル学会」を設立したいという依頼があったのがきっかけで、厚生労働省の上のほうの方に相談に行きました。そのときに対応してもらったのは審議官の立場でしたが、後には厚生省と労働省が一緒になって厚生労働省になったとき(2001年)の初代事務次官であったので、随分と前の話です。
有力者の紹介もあったので担当部署には丁寧に対応してもらえたほうですが、まず言われたのは名称の再考で、「日本メンタルヘルス学会」がふさわしいということでした。メンタル(mental)は「精神的な〜」と訳されることが多いのですが、精神そのものを指して、精神を学問として研究する学会という意向でした。
これがメンタルヘルスとなると、心の健康状態となり、意向とは意味が違ってきます。メンタルヘルスはWHO(世界保健機関)では「すべての個人が自らの可能性を認識し、生命の通常のストレスに対処し、生産的かつ効果的に働き、コミュニティに貢献することができる健全な状態」と定義しています。厚生労働省も、これを採用しています。
簡単に訳せば“心の健康”となり、メンタルは「心の」、ヘルスは「健康」を意味します。これに対して私たちはメンタルを「心の免疫力」と考えていて、もともと身体に備わった免疫システムを正常に働かせるためにすべきことを検討していこうとしていました。
“メンタルを鍛える”という言われ方もしていて、メンタル(心)が弱いのは本人の責任で、これを運動によって鍛えるようにトレーニングすることで健康になるという考えによって支配されています。まるでメンタルが弱いのは病気のような扱いをされています。
「心の免疫力」を高めるためには、さまざまな方法があり、多くの人とともに活動していく中で免疫力を高めて、病気の範疇にならないようにしたいという考えをしていました。
端から考えがすれ違っていたので学会設立は成就しなくて、メンタルヘルスも各分野での研究学会はあっても、総合的に対応する学会は今もありません。
免疫力の重要性はコロナ禍を経験して、国民的に重要性が認識されるようになりました。身体の免疫から、次は「心の免疫力」を維持することの重要性を考える時代に入ったのではないかと考えているところです。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)