あくまでも噂話109「関西の“たぬき”は“きつねそば”」

きつねは油揚げを指すことから、きつねの後に“そば”か“うどん”をつけて注文するというのは関東の常識です。単に「きつね」と注文したら、そばか、うどんか聞かれます。ところが、関西では“きつね”だけで通じます。「きつね」と注文したら、きつねうどんが出てきます。では、関西で“きつねそば”を食べたかったら、どうするかというと、「たぬき」と注文しなければなりません。

ここまでの書き方も、これから先の書き方も関東の目線となっています。私は関東に60歳過ぎまでいて、6年前に西日本に引っ越してきたからです。といっても移住先は岡山で、大阪で暮らしているわけではないので、東西差の洗礼は、それほどは受けていません。そのために、未だに新たな感覚で、東西差を語るような状況です。

たぬきが“きつねそば”になったのは、たぬきに化かされたからだと大阪のうどん屋で説明されました。うどんから、そばに化けたということです。

関東で“たぬき”といえばタネ抜きの略で、天ぷらのタネを抜くと天かすになります。天かすと揚げ玉とは同じものかどうかという議論はあるものの、そばに揚げ玉が入ったものは“たぬきそば”、うどんは“たぬきうどん”となります。関西では揚げ玉を入れた麺類はないので、「たぬきうどん」と注文しても、目的のものが食べにくいということだけでなくて、関西では“たぬき”は“きつねうどん”なので、注文が通りません。

この混乱を解決できてから京都に行ったときのこと、きつねそばを食べたくて「たぬき」と注文したら、きつねうどんが出てきました。それも刻んだ油揚げと青ネギが具で、餡がかかっていました。京都では、そばがうどんに化けていました。

注文したものと違うものが出てくるのは関東でもあって、久しぶりに東京に行ったときに、懐かしい味でお酒を飲もうと思い、老舗そば屋で「ぬき」を注文したら、なんと“たぬきそば”が出てきました。そばを食べずに、つまみとして天ぷらそばの“そば抜き”を注文したのに、滑舌もよかったはずなのに、聞き間違いではなくて、「ぬき」を“たぬきそば”だと思ったという、今どきの店員の知識のせいで、つまらない夕食になってしまいました。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)