食事をするときには背筋を伸ばして、手を合わせて、「いただきます」と発してから食べ始めるのが基本と考えられています。よい姿勢で「いただきます」と言うところまではよくても、食べ始めた途端に姿勢が崩れて、前かがみで食べ始める子どももいます。
いわゆる“犬食い”と呼ばれる姿勢で、犬に限ったことではなくて、動物のように口を食器に近づけて、極端な前屈姿勢で、まるで食器に顔を突っ込むような勢いで、ガツガツと食べていることを指しています。
日本人の食事は、もともとはお膳文化で、食器を持って、箸を使って口まで食べ物を運んでいく食べ方をしています。これは見た目も美しく、マナーに則っているということで、食文化の基本ともなっています。
それは消化・吸収にも有効で、身体を圧迫しない姿勢は、食べたものを咀嚼して唾液を多く分泌させ、胃の状態も正しく保って消化液を多く分泌させ、蠕動運動によって小腸へと運んで行くことにも有効な姿勢となります。
食べ物を口の中に入れれば食べたことになるという考えでいくと、座って食べても立って食べても、姿勢がよかろうか悪かろうが関係ないという発想になるかもしれませんが、消化・吸収は心身ともに落ち着いた状態で、自律神経の副交感神経の働きが盛んになっているときに促進されます。消化液を分泌するのも、蠕動運動を進めるのも、そして小腸から吸収するのも、すべて副交感神経の働きが盛んになっているときに進んでいきます。
それなのに興奮状態に誘うようなことをすると、交感神経の働きが盛んになって、その分だけ副交感神経の働きが低下して、食べたものが身につきにくくなってしまうことにもなるということです。
犬食いをしないとしても、早食いをすると、やはり副交感神経の働きが抑えられて、消化も吸収も低下するようになり、せっかくの栄養素が充分に吸収されないことになります。交感神経が盛んに働いているときには血管が収縮して血流が低下することにもなるので、吸収されてからの栄養素の循環にも影響が出てきてしまうのです。