妊娠中の母親の栄養状態が、誕生後の子どもの成長に大きく関わることは研究が進み、身体に蓄積される栄養素については妊娠中だけでなく、妊娠前からの摂取についても重要であることがわかってきました。
しかし、食物繊維の摂取については、体内に吸収されるものではなく、体内に残るものでもないことから、あまり研究テーマとなることはありませんでした。
母親と子どもの栄養状態については、環境省が「子どもの健康と環境に関する全国調査」(エコチル調査)として実施されていますが、これに参加している約7万6000組の母子を対象にして、山梨大学の研究チームが妊娠中の母親の食物繊維摂取量と生まれた子どもの3歳児の発達に与える影響にして調査を行っています。
その結果、妊娠中の食物繊維摂取量が少ない母親から生まれた子どもは、摂取量が多い母親の子どもと比べて、3歳児のコミュニケーション能力、微細運動能力、問題解決能力、個人・社会能力において発達に遅れが出やすい傾向にあることが示されました。国内で初めての大規模調査の結果です。
食物繊維は消化も吸収もされない性質がありますが、大腸内では腸内細菌による分解・発酵によって脂肪酸のうち結合が少ない短鎖脂肪酸が作られます。この短鎖脂肪酸は脳の発達や機能に重要であることが確認されています。
食物繊維は腸内細菌のうち善玉菌の栄養源(エサ)であり、食物繊維を多く摂ることによって腸内環境が整えられていきます。善玉菌が増えることは短鎖脂肪酸を増やすことにつながり、子どもの健やかな発達のためにも、発達障害の改善のためにも役立つことであることが示された重要な結果となっています。
妊娠中の食物繊維摂取量が最も多いグループから生まれた子どもと、最も少ないグループから生まれた子どもでは、3歳児のコミュニケーション能力は1.51倍、微細運動能力は1.45倍、問題解決能力は1.46倍、個人・社会能力は1.30倍のオッズ比となっていました。
発達障害は親のせいではないとは言われるものの、食事内容が影響するという、警鐘を鳴らすような調査結果でした。