「vs.」vs.「VS」

A対Bを表すときに「VS」が使われることがあります。“対”を表すのは「versus」で、その省略形は「vs.」です。「VS」ではなく、「vs」だったとしても、これは「vs.」の「.」が抜けた「versus」の間違いだとされます。

それなのに「VS」は頻繁に使われていて、有名なテレビ番組のタイトルにも使われていることもあって、当たり前のように対抗すること、つまりA対Bの意味で使われています。

言葉は元々の意味と合っているのか、由来が正しいのかという判定ではなくて、広く使われているものは正しいという判定がされることがあります。辞書の世界でも、多くに支持され、多くが使っているものを正しい判断とするところがあって、「VS」でも「vs」でも「vs.」同じ意味、つまり「versus」の省略として認識されるようになっています。

しかし、文字公正の場面では、「VS」も「vs」も「vs.」の書き間違いとして、抜けている「.」を書き加えられます。新聞や雑誌の校正の専門家からしたら、明らかに間違いだと「vs.」に直されます。

しかし、テレビ番組などの固有名詞である場合には、「.」が省かれたままにされます。「.」が加えられて、固有名詞のタイトルが修正されるようなことはありません。こういうことを見ていくと、「VS」も「vs」も「vs.」も同じ意味で使われていることがわかります。

今さら「.」がないのは間違いだ、などと言う必要はなく、どう書かれていても同じ意味だと理解して、目くじらを立てるのではなく、どれも“対”を表す「versus」の略で、同じものを別の書き方をする個性、流派による違いというくらいの気持ちでいてもよいのかもしれません。

ということではあっても、自分としては「vs.」と書き続けるようにします。ある紙面の寄稿に「vs.」と書いて提出したのに、印刷されたものが「vs」になっていたときも、文句をいうことなく、そのまま受け逃しました。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕