大手出版社でゴーストライターとして手がけた150冊のうち、本文の初めを「 」(鉤括弧)の言葉から始めたのは、社風を研究した書籍の1冊だけです。異例とも言える書き出しですが、それだけインパクトを与えられる言葉で、「なぜだ!」と発したのは大手老舗デパートの社長が、取締役会で辞任を求められたときに初めて口にしたことです。
「なぜだ!」は、パフォーマンスでも自分の身を守るためでもなく、なぜ辞任を求められるのかわからない、という気持ちで叫んだということを、取締役会に参加していた方から直接聞きました。その方を含めて、複数の方の共著の形で出版するためにインタビューをしている中で確認したことです。
デパート全体の売り上げを伸ばし、ブランドショップを数多く入れ、文化発信基地としても注目され、それこそ書籍も多く書いていたのに、やめろと言われるのはおかしい、辞めるべきは自分ではなくて“妙なこと” を言ってくる他の役員のほうではないか、というような発言があったとも聞いています。
このような考え方をするのはワンマン経営者によく見られることで、特別な人に限ったことではないのですが、世の中の全体の流れが見えていないと、自分では正しいと思ってやっていたことが実は間違っていたということには気づきにくいものです。
その元社長は、後のインタビュー記事で「世間に受け入れられなかったのは、誰のせいでもなく自分のせいであった」と反省の弁を述べているのですが、そのことは突っ走っているときには気づけないのは当然のことです。
「気づけないから、こんな結果になってしまう」ということは各界のリーダー的な存在の方に話をさせてもらい、賛同も得て、それを実践している企業や団体も増えていました。しかし、なぜか途中で変更してしまい、それが「こんな結果」になった例も多く経験してきました。
この経験を(ゴーストライターではなく)自分の名前で書籍にしたらよいのでは、と言ってくれる人もいますが、そのときには本文の書き出しは「なぜだ!」にしようかと考えているところです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕