早稲田大学スポーツ科学学術院、人間科学学術院のグループは、「スポーツ観戦によってウェルビーイングは醸成されるか」を、さまざまな指標を活用して検証し、スポーツ観戦がウェルビーイングを高めるという強固な科学的エビデンスを示すことに成功したと発表しました。
前回に続いて、研究2と研究3の結果を紹介します。
研究2では、日本人208名を対象に、人気スポーツ(野球・サッカー)と相対的に人気が劣る非人気スポーツ(テニス・ゴルフ)を視聴してもらい、視聴後の楽しさや活力の変化をオンラインアンケート形式で測定する実験が行われました。
分析の結果、「スポーツ観戦によるウェルビーイングの醸成効果は、人気のスポーツを観戦するとより強くなる」ことがわかりました。
研究3では、MR装置を用いて、スポーツを観ている際の脳活動およびスポーツ観戦頻度と脳構造の関連性が調べられました。人気の高いスポーツ(野球)を観ているときは、相対的に人気の低いスポーツ(ゴルフ)を観ているときよりも、尾状核という脳領域の活動が高いことがわかりました。
また、脳の構造画像データからVBM解析という手法を用いて、スポーツをよく観戦する人ほど、尾状核と扁桃体の灰白質(神経細胞の集まっているところ)の体積が大きいことを発見しました。
これらの脳領域は、報酬系と総称される神経系の一部で、幸福感を高める作用があるとされており、ウェルビーイングに深く関与することが考えられます。
これによって「スポーツを観ることで報酬系が活性化し、一時的にウェルビーイングが促進される」だけでなく、「それを繰り返すことで報酬系の構造変化が起こり、長期的なウェルビーイングにも貢献している」という神経生理学的メカニズムが示唆されました。
スポーツマネジメント領域のみならず、社会科学的研究では主観的指標を使い、できるだけ実社会に近い測定を心がける傾向があります。
一方、今回着目する現象(スポーツを観ることでウェルビーイングが醸成される)は、元をたどれば脳内で起きていることであるため、脳計測を行うに至りました。特に、報酬系という脳領域は、脳の深層に位置するため、主に脳の表層の機能を調べる脳波などは相性が悪いことは予測されました。
そこで、脳の深層の活動だけでなく、脳全体の構造も計測できるfMRIが用いられました。
この研究により、スポーツ観戦の効果が科学的に裏付けられたことで、スポーツ振興政策の立案にも影響を与える可能性があり、スポーツ観戦環境の整備に注力することで、国民のウェルビーイングの向上につなげることができると考えられます。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕