PHP研究所での仕事を終了した後は、同じくゴーストライターとしては複数の出版社で34冊を手がけましたが、大半は自分が広報担当として関わってきた医学、薬学、栄養学、運動科学の分野でした。
これらの書籍の著者には、150冊の作成で経験したこととは違うことを気づかせてもらいました。これも書けない内容ではあるのですが、それは本人が述べていることと、実践していることのギャップでした。
一流の経営者にもギャップはありましたが、それは会社を、業界を、社会をよくするために自分を抑えた姿と、人間らしい本音の部分ということでした。それとは大きく違ったギャップを特に強く感じたのは医学関係の専門家でした。
医師などの専門家は、健康に関わる指導は、それぞれの医療分野のガイドラインに基づいて話をしています。その指導を受けた方は、医師も実践して健康を維持しているものと信じたいところかもしれませんが、実際には患者と同じようなリスクを抱えていても、患者には禁止している食べ物も飲酒も好んでいるというのはよくあることでした。
そのことを書籍の取材で聞いたときに、「患者は知らないこと」「あなたが書かなければわからない」「自分は検査でも異常は発見されていないから」と言われたことがありました。
いかに自分が健康かということを力説されたので、それ以上は質問をしなかったのですが、常にエビデンス(科学的根拠)の重要性を述べている専門家が、自分のことになるとエビデンスは無視ということは、この方だけではなく、何人も目にしてきたことです。
患者よりも健康的な食事を心がけているという医師がいないわけではないとは思うものの、多くは指導していることとは違っていました。メタボリックシンドロームが一般に知られるようになったときに、医学系の学会の後の交流会に参加したことがありました。
内臓脂肪を多く溜めた医師が多いようでは指導に支障があるということから、学会の受付で腹囲が測定されました。節制をして学会に臨んだようで、終了後の飲食は、これまでにないような勢いで、満腹するまで食べていた方が多かったことを今でも鮮明に覚えています。
それとは逆の経験もあります。経済人の書籍に関わったときのこと、その方は経済団体の代表を務められていて、家庭では質素な食事をしていることがよく知られていました。そのことを質問したときに、書かないという条件で、実際のところを話してもらいました。
代表になってからは昼食も夕食も仕事の一部、経済団体の会合の場になっていて、食べ過ぎと偏った食事になっていたので、家にいるときだけは粗食にしているということでした。そのことを知ってか知らずか、経済誌に家庭での食事が紹介され、本人にしてみれば誤った情報が流れ、それが伝説のように広まっていったということでした。
このことは本人が意図した偽る脳力の話ではなく、周囲が誤って伝えただけのことですが、「多くの人に健康的な食事をすすめることになったのだから」と、あえて否定しない姿に“超一流”を感じたものです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕