偽る脳力3 書けない話が気づかせてくれたこと

「一流の人ほど偽る脳力が高い」ということに気づいたのは、その方々との仕事での関わりが終了してからでした。仕事をしている最中であったなら、自分はもっと磨かれて、よい結果が出せていたのではないかと気づいたときは、“時すでに遅し”という段階でした。

これはPHP研究所で書籍の原稿作成に関わって、150冊をゴーストライターとして手がけたときの話です。同社を立ち上げたのは松下電器の創業者の松下幸之助翁で、“経営の神様”の出版社らしく、一流の経済人や文化人が取材の対象でした。一流の著者は忙しい方ばかりで、私のような者にも名が出ることなく代わりに書くという役割が与えられました。

初めて手がけたのは、未来のリーダーを育成する場として立ち上げた松下政経塾で塾長の松下幸之助翁が語った講話録で、これはシリーズで刊行されました。

ゴーストライターとして関わった書籍の中には著者が同じものも複数ありましたが、中には共著や複数の方へのインタビューで構成したものもあって、インタビュー取材した方の人数を数えると、ちょうど150人でした。

これだけ多くの方々と交流させてもらう中で、あまり表に出てこない本音や隠れた話にも触れ、それが後々に役に立つ勉強の機会になりました。書籍として書けなかった内容を、私だけが勉強させてもらったということもあります。

書籍といっても辞書のような厚さのものから20ページほどの小冊子までありますが、150冊の書籍は200ページ超のよくある厚さで、400字詰め原稿用紙で300枚が文筆のノルマでした。

累計で4万5000枚、1800万文字は手書きから始まり、ワープロ、パソコンと変わっていく中で、1冊分の原稿を仕上げる時間は短くなりましたが、時間がかかったほうが著者の思いを原稿に乗せやすいことも感じていました。

一流の人との交流の中で、この人は違うと感じることができた“超一流”の方々に出会うこともできました。それは肩書きでも経歴でもなく、何をもって“超一流”と感じたのかというと、自分自身の行動を感情にとらわれずに物事を整理して、後進や周囲の人に役立つ結果を残すために動いていることで、場合によっては自分を騙すようなことができる人だったからです。

このことについては書き進めていく中で徐々に明らかにしていくことにしますが、これも関わってきた書籍には書かれていない(書かなかった)ことです。これを要約して伝えていくことが今の私の役割ではないかと感じたことが、この原稿を書き始めるきっかけとなっています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕