日本人は腸が長い、という話は事実として語られています。これは教科書にも載っていることで、私たちも、それに基づいて腸が長いことのメリット、デメリットを紹介しています。このことは『本当は健康寿命が短い日本人の体質』(宝島社)にも取り上げています。そして、デメリットを克服するための方法については、このサイトの「体質改善」の中で紹介していきます。
しかし、「日本人の腸が長いというのは間違いだ」という話が広まっていて、これまで日本人の腸が長いことから解決法の研究を進めてきた製薬会社や乳酸菌飲料会社、健康食品会社などは戸惑いを感じており、1社だけですが、私たちの相談をしてきたところもあります。
日本人と欧米人とを比較して、腸の長さに大きな違いはない、むしろ日本人のほうが短いという発表もされています。その一つとして、よく取り上げられているのはイギリスと日本の医師による1995年の発表で、東洋人は欧米人よりも短いというものです。これは面白いデータかと思って見ていたら、欧米人の腸の長さは死体で測定されています。日本人のデータは生きている人なのか、そうでないのかは明らかではないのですが、死ぬと腸は緊張が解けて伸びてしまいます。それで生きている人のデータと比較するのには無理があります。
3D−CT(仮想内視鏡)による1300名の検討という50歳以上の日本人とアメリカ人650名の腸を観察したデータが知られています。これをもって日本人とアメリカ人の腸の長さは変わらない、年齢を重ねるとともに腸は長くなるということが発表されています。これは決定的なデータかと思って見ていたら、大腸だけのデータでした。腸の長さが日本人の健康に影響するのは栄養素を吸収する小腸の長さのほうで、そのデータでなければ長短を言っても仕方がありません。
腸の長さで気になるのは、胴体の中に、どんな納まり方をしているのかということです。久里浜医療センターではCT画像によって日本人の80%ほどに見られる“ねじれ腸”について発表しています。その名の通り、捻れた状態になっている腸で、そのために便通が悪くなっているので、捻れを解消するマッサージが便通改善には効果的という発表もされています。
捻れていると腸は短くなるわけですが、ねじれ腸として発表されたのも大腸のデータです。小腸は捻れていなくても、日本人の小さな胴体の中に長い腸が詰まっていると、どうしても捻れた状態になります。それをCT画像によって見ると短くなるわけです。
日本人の腸の長さについて反証を掲げるなら、こういったことも考えてからにしてほしいものです。