高齢者は血圧が高いのは当たり前か

健康に関するセミナーのときのこと、「来年から高齢者になるのが楽しみ」と話している人がいました。高血圧の基準の変遷についての質問に対するやり取りの中でのコメントですが、年金の話とか医療費の自己負担の話かと思ったら、高齢者が血圧の基準が“甘くなる”ので楽になるとのこと。医療費の負担は所得にもよるものの70歳以上で2割、75歳以上で1割なので、高齢者になるのが楽しみというのはわからないでもありません。
年齢を重ねるほど血管の弾力性が低下してきて、同じ血圧であっても血管にかかる負担が強くなっていき、これが動脈硬化の要因となります。動脈硬化が進めば血流が低下して、脳に送られる血液が減ることから血流確保のために血圧が上昇します。高齢者は高血圧に注意しなければならないということですが、ある事実から考えると、高齢者になるのが楽しみという考え方が出てくるのも納得ができるところです。
現在の高血圧の診断基準は収縮期血圧(最高血圧)が130mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)が85mmHg以上となっています。これは若者の場合で、高齢者では140mmHg以上、90mmHg以上とされています。なかなか130mmHg、85mmHgのラインをクリアできなかった人が、今日から高齢者となって基準値が10mmHg高くてもよいということになれば、塩分の少ない食事や運動習慣など無理をしなくてもよいのでは、という考えになるのも当然かもしれません。
日本人は血圧が高い傾向の国民で、高血圧は日本人の体質そのものと考えられていた時代もあります。1989年に高血圧の基準が変わるまでは、なんと180mmHg以上、110mmHg以上が高血圧と診断されていました。それが1989年の改定で160mmHg以上、95mmHg以上が高血圧となりました。これをギリギリ下回っていた人は、今では“立派な”高血圧患者です。
2000年には140mmHg以上、90mmHg以上となり、2004年には130mmHg以上、90mmHg以上となり、さらに2009年に130mmHg以上、85mmHgという現在の基準になりました。
この変遷については、WHO(世界保健機関)が高血圧による動脈硬化、動脈硬化による脳血管疾患や心疾患(心臓病)を減らすことを目指して基準を下げるたびに、これを日本でも採用してきました。それだけ早く高血圧の薬を使うことができるようになり、高血圧の薬は使い続けなければならないので医療機関も製薬会社も“儲かる”という批判も出てきました。基準を厳しくするたびに患者が増えて、高血圧が最も患者数が多くなった原因でもあります。
高齢者といっても、65歳から男性の平均寿命の80歳、女性の平均寿命の87歳、健康長寿の見本のような100歳越えの人までいます。それを高齢者なら収縮期血圧が140mmHg、拡張期血圧が90mmHgという基準でよいのかという考えも当然のようにあります。
高齢者の血圧について、「年齢+90」ということが言われたことがあります。65歳の人なら収縮期血圧は155mmHgという計算ですが、これなら2000年の基準より緩やかです。70歳なら160mmHgとなり、1989年の基準でよいことになります。
血圧だけに注目すれば、この考えでもよいことになり、食事や運動への取り組みも随分と楽になるわけですが、動脈硬化に注目すると血圧だけでなく、血糖値、中性脂肪値、LDLコレステロール値も重要になります。これらの生活習慣病の検査数値は食事と運動、生活環境・習慣などによって大きな影響を受けるだけに、全体を見て、無理なく続けられる生活習慣改善が必要になります。これについては、このサイトの「体質改善」や「最新情報」の中で徐々に明らかにしていきます。