未病の師匠の教え

未病というと東洋医学の考えで、その療法も東洋医学だと思われがちです。もちろん未病の看板を掲げて東洋医学の治療院を開業しているところもありますが、ここでいう未病は西洋医学で、その師匠も西洋医学の循環器のドクターです。西洋医学といっても、東洋医学も使うという先生ではなくて、慶應義塾大学医学部で教授を務め、日本臨床栄養学会の理事、そして日本未病システム学会では理事長も務めた都島基夫先生です。都島先生には未病の取材をして、日本健康倶楽部(巡回健診の社団法人)の月刊情報誌『健康日本』に連載記事を掲載したところから付き合いが始まりました。
日本未病システム学会のシステムは現在の医療システムを指していますが、実施する検査も治療も西洋医学であっても、その発想は東洋医学の未病の考えを重要視しています。そのことは都島先生が理事長時代に作り上げた未病ガイドラインでも明らかです。
一般には未病は健康と病気の間に位置づけられるものであり、病気になってから治療を始めるのではなく、少し血圧が高い、血糖値が高いという未病の段階で治療を始めるもので、これなら医薬品が必要であっても弱いものを少し使うだけでも対応できます。医薬品を使うまで検査数値が高まっていない場合には食事や運動、場合によってはサプリメントを使うこともあります。
都島先生の教えで感化されたのは、その先で、例えば血糖値が検査で異常とされても、まだ合併症が出ていない状態で、医薬品は少し使うにしても専門家の介入によって健康に戻れる状態が未病であって、そのために専門家は、それぞれの特技を活かして手を組んで取り組むべきという考えです。合併症まで進んでしまったのでは、専門家が束になっても健康状態に戻すことはできないので、いかに未病のうちに発見して治すかが重要となります。
では、合併症が出たら、これは未病の範疇ではない“立派な病気”なので未病の専門家の出番はないのかというと、それも違っていて、「自立ができる状態で天寿を全うすることを目指す」という道があります。WHO(世界保健機関)は、自立できない状態を病気としています。“自立できているうちは健康だ”という考え方もありますが、今は自立できていても将来的に自立できなくなる可能性が高い人の場合には、未病と捉えて当たるべきだということです。
日本は超高齢化社会であり、もうじき超高齢社会に突入する段階となっています。また、2018年は後期高齢者の数が前期高齢者の数を上回る分岐点であり、ここまで高齢者が増えると、何らかの状態の変化は必ず起こっています。都島先生は「病気の最大の要因は年齢」と言います。年齢だけは努力をしても止められないだけに、年齢が進んだ分だけ他の対策を取ることが重要であり、そこに私たちの専門性も活かす意義を教えられています。