体重は自然と調整されるようになっているのか

「食事を食べすぎて体脂肪が増えたとしても、そのあとは自然と体脂肪が減っていくようになっているので、我慢をして食事制限をしなくていい」と嬉しいことを言う医師がいます。そんな発言になる理由を知っているだけに、もっと詳しく言ってほしい、「ただし」という注意点も言ってほしいと思って聞いているのは私たちだけではありません。
体脂肪が増えると脂肪細胞の中からレプチンというホルモンが分泌されます。レプチンは脳の視床下部に作用して、食欲を抑制すると同時にエネルギー代謝を高めます。代謝が高まるというのは、いわゆる脂肪が燃焼するといわれていることで、体脂肪が減っていきます。レプチンは脂肪細胞の中の脂肪が増えるほど分泌量が増えます。だから、太ると次にやせることになってバランスが取れるということを言いたいわけです。
しかし、それは全員ではありません。体脂肪が増えたら、しばらくしたら減っていく人がいる一方で、なかなか減らない人もいます。中には増える一方という人もいます。この違いを起こしているのは遺伝子です。レプチンの分泌は体脂肪が増えると自動的に起こるので、ここには遺伝子は関わっていません。遺伝子が関係するのは視床下部で、レプチンが分泌されているのに、それに反応させる遺伝子の働きが正常でないために、食欲が抑制されずに食べ続けたり、エネルギー代謝が盛んにならないことが起こります。この状態はレプチン抵抗性と呼ばれます。
ダイエットの話をするときには、抵抗性という言葉が別の機会にも使われます。それはインスリン抵抗性です。インスリンは食事をしたあとにブドウ糖の量に応じて膵臓から分泌されるホルモンです。ブドウ糖の量が多くなるほど多くの糖質を摂ったわけで、ブドウ糖を細胞の中に取り込むためにインスリンが使われます。それによって細胞の中ではエネルギー代謝が盛んになり、血糖値が下がっていきます。血液中のブドウ糖が多くなると脳の満腹中枢が働いて食欲が抑えられます。これとは逆にブドウ糖の量が少なくなると今度は摂食中枢が働いて空腹を感じるようになります。この2種類の食事に関わる中枢によって食べる量のバランスが取られているわけです。
だから、たくさん食べても大丈夫かというと、インスリンには肝臓での脂肪の合成を盛んにする働きもあります。そのために多くの量を食べて、血糖値が上昇すると脂肪が増えて、体脂肪として蓄積されるようになります。インスリン抵抗性がある人は、インスリンが分泌されても細胞の取り込みが充分に行われず、血液中のブドウ糖が増えます。余分となったブドウ糖は肝臓でインスリンによって脂肪合成されるわけですが、インスリンが分泌されても血糖値が下がらないと膵臓はもっとインスリンを分泌させるようになります。こういったことによって、インスリン抵抗性の人は太り、そして糖尿病になりやすく、さらに治りにくいということになるわけです。