肥満の原因は遺伝子か生活環境か

太っているのは本人の自己管理能力が低いためだと言われてきました。ダイエット成功は自己管理の賜物と考えられてきただけに、ダイエットの指導者が太っていたら、こんな人の言うことは信じられない、やせることなんてできないと思われて、指導をまともに聞いてくれないどころか、指導を受けに来てもくれないという状況にもなります。
このような反応が多かったのは、太る原因が生活環境のためだと思われていたからです。しかし、肥満遺伝子の研究が進み、肥満になるのは遺伝子のせいで、生まれつき太やすいか、それともやせやすいかが決まっていることが理解されるにつれて、反応も変わってきました。
マイナス思考をする人だと、肥満遺伝子で自分が太るかどうかは決まっているのだから、頑張ってダイエットをしても仕方がない、などといったことを考えます。中には、どうせやせにくいのだったら我慢をしないで食べてしまおうと考える人もいます。これに対してプラス思考をする人の場合には、太る遺伝子だといっても、太る原因がわかれば効率的なダイエットができると考えます。こういったよい発想をしてくれると遺伝子を調べた効果が上がるというものです。
なぜ、こんな話をしているのかというと、テレビ局のディレクターから「肥満に遺伝子と生活環境は、どれくらいの割合で影響しているのか」と聞かれて、それに対する返答の中で、前記のような話をしたからです。
肥満治療の専門家に言わせると遺伝子が70%、生活環境が30%と定説のように口にします。しかし、遺伝子のタイプは同じであっても、それが出る強さは個人差が大きく、生活環境が違うと個人差のブレが大きくなります。同じ遺伝子を持つ双子での比較試験がアメリカで行われました。日本の約2倍の人口でしかないのに4000組の双子を調査したのは驚きですが、その結果としてわかったのは一卵性の双子のほうが二卵性よりも遺伝子に影響が出やすいことがわかり、二卵性では70%ほどの影響だという発表がされました。
産みの親と育ての親の影響の調査では、肥満になった人は育ての親の影響は小さく、産みの親が太っていると子供も太る傾向があることがわかり、さらに母親が太っていると75%の確率で子供も太るということ報告されています。
同じ肥満遺伝子を持つ人に生活環境が影響することについては、アメリカのピマ・インディアンの調査があります。ピマ・インディアンはアリゾナの少数民族で、その一部がメキシコに移住しています。アリゾナのピマ・インディアンは特に脂肪の摂取量が多いわけではなく、アメリカの平均に近い40%ほどの脂肪摂取にも関わらず肥満率は90%にも及んでいます。それに対してメキシコのピマ・インディアンは脂肪摂取が半分ほどで、肥満率は30%ほどでしかなかったのです。
肥満遺伝子があっても、食生活に注意をしていれば肥満にならずに済むことを示しているわけで、マイナス思考になることはなく、プラス思考で自分の体質に合った生活をしてほしいということを伝えさせてもらっています。