日本人の健康は、長い歴史の中で穀類や野菜、魚類を多く摂ってきたという土台があり、これでは足りなかった肉類と脂肪を補うことで作られてきました。このことが日本人の寿命を延ばし、病気が少ないという健康長寿を支えてきたわけです。それが今では、肉類と脂肪が増えすぎ、穀類、野菜、豆、きのこ、海藻といった日本人が長く食べてきた食材が減ることで、寿命の延びにつれて生活習慣病も増え続けるという結果を招きました。
不足しているものは、食品を多く食べて補えばよい、というのは当たり前の発想です。しかし今は、これ以上、食べるものを増やせとは言いにくい状況にあります。なにしろ、食品に含まれる栄養成分が低下しているのですから。
栄養低下の例として、よくあげられるのがほうれん草のビタミンCです。食品に含まれる栄養成分の量は『日本食品標準成分表』に掲載されています。初版が登場したのは終戦から5年後の1950年のことで、その初版のほうれん草のビタミンCは可食部100gあたり150㎎となっていました。それが1963年の三訂では100㎎に、1982年の四訂では65㎎、2000年の五訂から現在の『日本食品標準成分表2018』では35㎎にも低下しています。
この数値は年間を通じての平均値で、五訂からは冬採りと夏採りの数値も発表されています。それによると旬の季節である冬には60㎎であるのに対して、夏採りは20㎎にもなっています。今の旬のビタミンCの含有量は、四訂の平均値にもなっていないということがわかります。
初版の昭和25年当時は、今でいう有機・無農薬の状態だったため、農薬も化学肥料も使わずに栽培すれば栄養成分が豊富なほうれん草になるのではないか、と考える人も多いようです。しかし、そう簡単にはいきません。
昔のほうれん草は、ギザギザした感じの東洋種で、今出回っているのは東洋種と西洋種を掛け合わせたツルッとした形のものです。形だけでなく、中身も違っています。昔のほうれん草は、お湯で茹でてアク抜きをしないと食べられないものでした。ところが、今では生サラダでも食べられるものが出ています。アクも少なくて食べやすい代わりに、大切な栄養成分も抜けたのは今のほうれん草といえます。
ほうれん草は、いつでも買うことができるので、旬がいつなのかわからないようになってしまいましたが、旬は栄養成分が豊富という法則に従えば、冬だということになります。