生きている人間は、決して腐ることはありません。それは生きている人間は免疫によって、細胞が病原菌などによって破壊されないように守られているからです。怪我が治るのも、がんやウイルスなどによって身体が侵されないようにしているのも、すべて免疫が働いているからです。
免疫は、「病気と戦う力」であると一般には理解されていますが、正確には「身体にとって必要なものと不必要な有害なものとを判別して、有害なものだけを攻撃する力」を指しています。
免疫は軍隊にたとえられることが多く、強い軍隊であっても外敵と味方の区別ができないのでは、的確に外敵だけを攻撃することはできません。そこで免疫を有効に働かせて外敵と戦うためには、まずはレーダーに当たる外敵と味方を識別する能力が必要になるわけですが、レーダーの役目をしているのが自律神経やホルモン調整などを行っている中枢神経です。
免疫を司っているのは免疫細胞と呼ばれる白血球とリンパ球です。白血球もリンパ球も血液中や細胞の周りなど全身をパトロールしていて、外敵を発見したら、そこに集まって処理を始めます。
白血球は好中球とマクロファージに大きく分けられます。好中球は小さな白血球で、病原菌や有害物質などを食べるようにして内部に取り込んで分解・処理していきます。一つひとつは小さく、処理できる量も限られているものの、非常に数が多く、数の力で対応しています。好中球は軍隊でいえば軽装備しか持っていない歩兵に相当します。
マクロファージは大きな白血球で、数多くの外敵を貪食をします。戦車のように大量の外敵と戦えるわけですが、好中球が単に外敵を食べて処理するのに対して、マクロファージは外敵の種類や強さ、処理の情報をサイン物質のサイトカインを外に出します。このサイン物質を受けて、次により強い軍隊に当たるリンパ球が働き出します。
このほかに、寄生虫の攻撃やアレルギー反応の抑制などをしている好酸球があります。
リンパ球にはB細胞とT細胞があります。B細胞は骨髄で増殖し、外敵に合わせた抗体を作り出して外敵と戦います。抗体は1種類の外敵にだけ有効なもので、その抗体を作る情報はB細胞の中に組み込まれています。つまり、未知の外敵に対してB細胞は、あらかじめ対応できるだけの情報を膨大に準備していることになります。
T細胞は骨髄で作られたあと、胸腺で成熟して活動能力を高めていきます。T細胞には、その役目によってヘルパーT細胞、キラーT細胞、サプレッサーT細胞、ナチュラルキラー細胞の4種類に分けられます。ヘルパーT細胞は、B細胞が抗体を作り出すのを助けます。キラーT細胞は、外敵を直接的に攻撃するミサイルにたとえられます。キラーT細胞は働きすぎて外敵だけでなく味方である自分の身体の細胞を傷つけることがあります。これが免疫異常やアレルギーの原因となっていますが、働きすぎを抑えて免疫作用を調整するのがサプレッサーT細胞の役割です。ナチュラルキラー細胞は腫瘍を主に攻撃して破壊する働きがあります。
T細胞は胸腺で成熟していますが、胸腺は15歳ころまで成長し、それ以降は退縮していって、40歳を過ぎると機能が徐々に失われていきます。40歳を過ぎると免疫が低下し続けるのは、胸腺の機能が低下して、T細胞の働きが低下することに関係しています。