268 尿酸対策のウォーキング

運動をすることをすすめられると、検査数値の改善を強く意識することから、ついつい激しい運動を考える人も少なくありません。生活習慣病の予防・改善のための運動の中でも、痛風予防の尿酸値を下げるための運動では、身体に負担がかかることは避けなければなりません。
激しい運動をすると代謝が高まり、そのために尿酸のもとになるプリン体が体内で増えていきます。プリン体は細胞の核酸の成分で、細胞が壊れるほど血液中に多くなっていきます。特に増えるのは、運動の強度が高まり、筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給が追いつかなくなったときです。この段階に達すると、血液中の乳酸が急激に増加し始め、乳酸によって尿酸の排泄が抑えられたり、プリン体の分解が進んで尿酸値が急激に高まってきます。
筋肉のエネルギー消費に必要な酸素供給のことを無酸素性作業閾値酸素消費量といい、酸素摂取量を上回る直前の状態をAT(Anaerobics Threshold)といいます。このAT以下の軽い運動ではプリン体の分解による尿酸産生も、乳酸産生による尿酸排泄の抑制も起こらず、そのため尿酸値も変化がありません。尿酸値は高めの人に激しい運動が禁止されるのは、こういった理由があるからです。
日本痛風・核酸代謝学会の『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン』では、適度な運動として「有酸素運動」を推奨しています。
アメリカで2008年に2万8990人の男性を対象に7年間にわたる大規模調査を行っていますが、それによると距離が長いランニングをした場合には、運動をしない人に比べて痛風発症リスクが0.9倍、適度な運動をした場合には0.6倍と低い発症率となっていました。
有酸素運動は尿酸値を上昇させないだけでなく、体脂肪の減少によってインスリン抵抗性が改善して糖尿病のリスクが下がり、血圧の低下、中性脂肪値の低下、善玉コレステロールとも呼ばれるHDL(高比重リポたんぱく)の上昇など高尿酸血症・痛風患者に合併しやすいメタボリックシンドロームの病態を改善させるといった、多くのメリットがあげられています。