食事の始まりは口の中に入れた食べ物を噛むことから始まります。特に噛み方を教えていない3歳児でも、飲み込むまでに15回ほどは噛んでいます。これは平均的な回数であって、歯の状態、口腔内の状態がよくない場合には、噛む回数が減ることは当然に考えられることです。
よく噛むことによって食べたものが細かく砕かれるとともに、唾液が多く分泌されて、消化が進みやすくなります。唾液には消化酵素のアミラーゼが含まれていて、デンプンを麦芽糖に分解する働きがあります。この状態で飲み込むことによって、胃の中で麦芽糖はブドウ糖まで分解されて、エネルギー源としてのブドウ糖が吸収されやすくなります。
唾液の分泌量は噛む回数だけで決まるものではなくて、ストレスや自律神経の状態によって変化をします。ストレスを感じているときには唾液の分泌量が減ります。発達障害児はストレスが強まっていることから、唾液の量は少なくなりがちです。ストレス状態では、自律神経の交感神経の働きが強くなっています。
交感神経が盛んに働いているときには唾液は粘度が高まります。これに対して、リラックス状態で副交感神経が盛んに働いているときには、唾液が増えてサラサラ状態になります。そのため、同じだけ噛んでも消化が進みやすくなっています。
胃での消化は胃液によって行われますが、胃液にもアミラーゼが含まれていて、麦芽糖からブドウ糖への分解が進められます。アミラーゼは十二指腸からも分泌されています。
胃液に含まれるプロテアーゼは、たんぱく質を分解する消化酵素で、これは胃、十二指腸、小腸から分泌されています。脂肪を分解する酵素のリパーゼは胃、十二指腸、小腸から分泌されます。
これらの消化液を盛んに分泌させるのも副交感神経の働きで、ストレス状態など交感神経の働きが盛んなときには分泌量が減ります。そのために、消化が不十分となり、吸収に影響が出てきます。
小腸の蠕動運動を進めるのも吸収を進めるのも、副交感神経の働きによるものです。しっかりと噛んだあとの消化、吸収は自律神経の状態に影響されるので、そのような身体の仕組みも理解した上で、噛むことの重要性を考え、伝えるようにしたいものです。
〔発達栄養指南:小林正人〕