L‐カルニチンの基礎知識
羊肉(ラムやマトン)を食べると太りにくい、やせることができるという話題がテレビなどのメディアを通じて広まったことがあります。実際、品質の良い羊肉がオセアニアから新鮮な状態で輸入する体制も整えられ、ジンギスカンが相当なブームになりました。その裏付けとされた事実は肉類、とりわけ羊肉には脂肪を燃焼させる栄養成分であるL‐カルニチンが多く含まれていることでした。
脂肪は、私たちの身体の中で大量のエネルギーを生み出せる重要な燃料ですが、それが燃焼する場所は細胞内のエンジンにあたるミトコンドリアという部分です。ところが、脂肪はそれ単独ではミトコンドリアに入ることができず、必ずL‐カルニチンによって運搬されなければなりません。そのため体内に十分な量のL‐カルニチンがあるとエンジンへの燃料の注入がスムーズになり、十分な生命エネルギーが生み出されるようになるのです。
L‐カルニチンは生きてゆくために必須の成分なので、ヒトの体内でも必要量自給自足できる仕組みが一応整っています。ただし、加齢とともに、この自給自足体制はしだいに衰えてくることがわかっています。平均寿命が男女とも80歳を超えるような社会ともなってくると、そこで高いQOL(生活の質)で生き抜き、健康寿命を全うするためにはこのようなエネルギー成分を上手に補ってあげることが大切になってきます。また、アスリートのような通常よりも多くの体力を要求される人や、いわゆるメタボ体質で燃えないエネルギーを持ちすぎている人、また健康美を少し積極的に手に入れたいと思われる人たちにもこの「自給自足+α」がポイントとなってきます。だから、食物繊維などと一緒にL‐カルニチンの豊富なお肉を進んで召し上がることは栄養学的にはすぐれた戦略といえるでしょう。
一方、和食は魚介類や繊維、ビタミン、ミネラルが豊富でバランスよく含まれた世界に冠たるヘルシー食です。そんなメニューをいただく傍らでステーキや焼き肉を毎日いただくことは現実的ではありませんし、かえって飽和脂肪酸の食べ過ぎを招いて、和食の良さをそこなうことにもなりかねません。そこでお勧めしたいのは和食をベースとした食生活に時折お肉を加え、さらにコンスタントに少量のL‐カルニチンをサプリメントなどで補ってゆくやり方です。日本食の良さを生かしながら、そこで不足しがちな成分を胃腸に負担をかけずに上手に補って行く方法はいわば「超和食術」とでもいえるものです。
このL‐カルニチンはかつて専ら医薬品として使用されていましたが、その安全性の高さや海外での長い使用実績から2002年以来、厚生労働省によって健康食品等の素材としての利用が認められるようになりました。
L‐カルニチン(carnitine)という呼称はラテン語の肉を意味するカルネ(carne)に由来します。日本語でも謝肉祭(カーニバルcarnival)という言葉が知られています。日露戦争の頃の1905年にロシアの研究者が肉の抽出液の中に発見したことにちなんで、この名前がつけられました。それからちょうど100年後の2005年にはL‐カルニチンは日本で最も有名な栄養成分のひとつとしてスポーツ飲料やダイエット食品などに広く用いられるようになり、今日に至っています。
肉類の摂取が多い欧米人などは平熱体温が37℃以上であるのが普通ですが、それもあってか冷え性が少ないことが知られています。これは代々肉食を主としてきたことから体内にL‐カルニチンの蓄積量も多く、脂肪が燃焼しやすくなっているからではないかと考えられます。
実際、漢方などの古くから確立されている東洋の施療体系でも羊肉は「身体を温める食品」に分類されています。一方、菜食・魚食を励行してきた日本人は今日でもL‐カルニチンの一般食品からの摂取量は数十ミリグラムと少なめです。逆に、その分日本人には外部摂取したときにその機能が発揮されやすい体質であるとも考えられます。ちなみに世界で最も多くのL‐カルニチンを日常の食品から摂っている国民はモンゴルの人たちです。相撲界でのパワフルさは、その現れかもしれない、と少し想像してみたくなります。
日本人を対象とした有効性試験
L‐カルニチンの摂取によって脂肪燃焼が促進されることを裏付ける試験は、これまでに何度か行われています。ドイツで厳密な条件のもとに行われたヒト試験では健康な男女に10日間、L‐カルニチンを摂取してもらい、摂取前後の脂肪燃焼効率が比較されました。それによると、摂取後には呼気に含まれる脂肪由来の炭酸ガスの量が増えることが確かめられ、これにより脂肪燃焼の促進効果が証明されました(1)(図1)。
L-カルニチン摂取で脂肪燃焼が約4%促進された
L‐カルニチン研究は現在も活発に行われており、年間に報告される論文数は400件以上にもなります。2013年に日本人を対象にした臨床試験がロンザジャパン社によって専門学術誌に論文発表されました(2)。この試験では、22人の日本人被験者を対象としたもので、1日あたり500 mgのL‐カルニチンの摂取が4週間続けられました。
通常、サプリメントの臨床試験は、効果を確かめたい成分を摂取してもらう群(摂取群)と、成分を含まない偽検体を摂ってもらう群(プラセボ群)に分けて得られた結果が比較されます。この試験では、それに加えて摂取群・非摂取群のそれぞれをさらに二組に分けて合計4群とし、片方のグループのみに「事前個別面談」が行われました。その個別面談ではL-カルニチンの働きをざっと理解してもらい、それぞれの人に適した食事によるカロリーコントロールの方法について話し合いが行われました。具体的には「朝食をしっかりと摂ること、ランチは控えめにすること、3時のおやつは少しだけ摂ること、夕食は自由に摂ること、可能な限り寝る前にはものを食べないこと」を基本の食パターンとしてもらうことにしました。この食事摂取パターンは、栄養バランスを損なわずにカロリーを抑えるための方法として同社が開発してきた無理のない実践法です。
また、運動については特別なジム通いなどは始めたりせず、日常生活の中でエスカレーターより階段を使うといった軽い運動習慣の「心がけ」を持ってもらい、歩数計と体重計を貸し出して毎日記録をつけることが行われました。その結果、食と運動の生活習慣を少しだけ改善しようという心がけをもったグループ(個別面談群)のうち、L‐カルニチンを摂取してもらった群で中性脂肪と体重の減少が最も顕著にみられるということが明らかになりました。
つまり、サプリメントはただ摂取するだけでなく、生活習慣を変えようというちょっとした心の働き(これを行動変容といいます)が伴った時に最も成果を得やすいということです。もともとサプリメントは「付録、付け加えるもの」という意味の言葉です。ですから生活習慣の改善に付け加えることで期待する効果が得られるという意味ではサプリメント本来の役割が示された意義ある結果が得られたと言えるでしょう。
(1) Wutzke KD. et al.. Metabolism 53 (8) 1002-1006 (2004)
(2) Odo S. et al. Food Nutr Sci 4, 222-231 (2013)
資料提供:ロンザジャパン株式会社