厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」が1月から使用されるようになって、この基準の変更的について取り上げるメディアが増えてきました。高齢社会への対応から栄養摂取の基準に関して高齢者の分類を変えたり、摂取すべき量を増やすということが行われましたが、大きな変更ではなかったことから、メディア受けするものではなかったようで、コレステロールについての記事と番組が目立ちました。
しかし、充分に理解されなかったのか、誤った印象を与えてしまうような取り上げ方もされていました。その中で特に気になったのは、コレステロールの上限値でした。コレステロールは多く摂りすぎると動脈硬化のリスクを高めるという話を取り上げ、「日本人の食事摂取基準2010年版」ではコレステロールの1日の摂取量が男性で750mg未満、女性で600mg未満とされていたのが、「日本人の食事摂取基準2015年版」では上限値がなくなりました。これを紹介して、いくらでもコレステロールを摂って大丈夫になったということで驚きの目を向けさせておいて、最後の畳み込みとして「日本人の食事摂取基準2020年版」では再び上限値が定められたという伝え方でした。
上限値を定めなかったのは日本人を対象とした大規模コホート研究によって卵の摂取量による虚血性心疾患と脳梗塞の死亡率に関係がなく、1日に2個以上の卵を食べる人と、ほとんど食べない人とで差がないことがわかったというのが根拠として示されていました。しかし、これは病気の範囲にはない人が対象とされたもので、脂質異常症のLDLコレステロール血症の人が重症化しないことを考えたときには、いくらでもコレステロールを摂っていい、卵を何個でも食べていいとは言えないというのが実際のところです。
そこで「日本人の食事摂取基準2020年版」では、目標値は設定しないものの、脂質異常症の人は重症化を予防するために1日のコレステロールの摂取量は200mg以下が望ましいという考えが示されました。誰でも同じではなく、個人のリスクによって摂取を控えなければいけないという当たり前のことですが、それが示されたということで、上限値を定めたわけではないのです。これまでと同様に、1日に1〜2個の卵を食べてもよい人はいるということで、それを実践するためには自分のLDLコレステロールの状態を血液検査によって知っておく必要があるということです。