健康寿命延伸のための提言50 提言のエビデンス7感染症4

国立高度専門医療研究センター6機関(国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター)が連携して、研究成果として「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」を公開しています。提言のエビデンスの解説(第4回)を紹介します。
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)は、HTLV–1というウイルス感染が原因で、白血球の中のT細胞に感染し、感染したT細胞からがん化した細胞(ATL細胞)が無制限に増殖することで発症します。1977年に日本ではじめて提唱された疾患で、近年の調査で下記のことがわかってきました。HTLV–1ウイルスに感染しても必ずしも発症するわけではありませんが、他の白血球やリンパ腫より症状がさまざまで、根治が難しい場合もあります。感染から発症までの潜伏期間は長く(30〜50代)、HTLV–1感染者が生涯に発症する確率は約5%程度とされています。20歳代までの発症は極めてまれで、年齢とともに増加し、60歳ごろを発症のピークとして以降徐々に減少します。HTLV–1感染症では、ATLの他、HTLV–1関連脊髄症やブドウ膜炎などを発症する場合があることも知られています。
国内のHTLV–1感染者は、もともと日本の西南部(九州・沖縄地方)に限局していましたが、最近は都市部を中心に全国に拡散しており、国内感染者数は約100万人と推定されています。近年の研究では、年間新規感染者数は4,000人と推定され、感染拡大傾向にあると考えられています。海外でもオーストラリアなど、世界各地で高い感染率を示す地域が判明してきており、国際的にも大きな問題となってきています。
感染経路は、母乳による母子感染、輸血、性交による感染です。日本では、もともと大部分が母乳による母子感染でしたが、妊婦への検査普及や母乳授乳制限推奨などによって、近年では母子感染が抑えられてきています。一方、最近の研究で、性交渉を主とする水平感染の拡大が判明し、その感染拡大抑制が重要課題となってきています。