学習障害187 全員で同じ対応をしてよいのか

学習障害児のための学習指導をしているときに、急に実力行使に出る子どもがいます。未就学の子どもでは他の子どもを叩くといった行動が多いものの、小学生になると集団行動を取らされていることもあって暴力的な行動は少なくなります。その代わりに、自分の思いを強く出したいがために、大声で叫ぶ、机を叩くなど大きな音を出す、立ち上がってうろつくといった、周囲からすると妨害行動かと思われるようなことが出てきます。
これは妨害しようとしてやっていることは少なくて、自分に注目してほしい、理解してほしいという気持ちを上手に表すことができずに、これまでやってきたことの中から本人として効果があったと感じたことをしているというのが多く見受けられることです。
その行動の理由としては、思ったような結果が出なかった、講師の教え方が気に入らなかった、こんな学習塾では学びたくない、学びたくないところに連れてきた保護者への反発などさまざまです。幼い子どもは、自分にとって身に危険なことがあると無闇に腕を振り回して何も近づいてこないようにする行動がみられますが、発達障害がある子どもには、その感覚が改善されずに、小学生になってからも逃げ出したい気持ちになったときに、全力で逃走しようとする、それを止めようとする人を排除しようとすることがあります。
これが妨害行為、暴力行為と見えたら、危険が周囲に広がらないように止めにかかろうとするのは当然のことです。無分別になった子どもは手加減なくぶつかってきますが、発達障害があると手加減の感覚がわからずに常に全力でぶつかってくるところがあります。ある程度の実力行使は必要ではあるものの、そのときに全員の大人が押さえにかかるのは子どものためにはよくないことです。
周囲とのコミュニケーションが苦手で、居場所がないと感じている発達障害がある子どもには、最悪と思われる行動をしたときでも逃げ場が必要です。クラス全員で無視をしたり、教師も一緒に責めるようなことをしたら、状態を悪化させるだけです。学習塾では1人だけでも冷静に見守り、子どもの逃げ場になる人が必要です。できればトップの人が相応しくて、最も地位がある、力があると子どもが感じている人が見守り、あとで落ち着いてから対応をしてあげるということが大切です。
だから、発達障害児のための学習塾では複数のスタッフが必要になるのです。そのような対応をしているのに、職員から「トップは何もしないで見ているだけだった」との批判の声が出ることもあるのですが、発達障害がある子どもを預かっているときには、全員で押さえにかかるようなことはしてはいけないという、当然の対応であることを知っておいてほしいのです。