断然と全然の使い分け

「断然」は肯定語が続いて前向き、イエス(YES)という意味の時に使われ、「全然」は否定語が続いて、後ろ向きどころかノー(NO)の意味のときに使われると国語の授業で習いました。語尾がうまく聞き取りできなくても「断然」と言われたらYES・OKのつもりで言っていることがわかり、「全然」と言われたらNO・NGのつもりで言っていることがわかります。その知識に基づいて意味合いの判断をしていると、まったく逆のことを言っていたのだということが後になってわかり、慌てて訂正に回ったこともあります。
若者言葉として使われているだけなら仕方がないか、と言って済ませることもできるでしょう。大人にまで広がっても、話し言葉の中で使われるだけなら、これもまだ許せるかもしれません。ところが、テレビ番組の中で、ちゃんとしたコメンテーターが全然を肯定の意味として使っていると違和感を感じます。全然と断然が混同して使われ始めたばかりのときには、アナウンサーが直したり、テレップを「断然」に変えて表示したものです。話したことは「すごい」でもテロップには「すごく」と示されるのと同じようにです。
しかし、いつの間にかアナウンサーが直すことがなくなり、テロップにも「全然」と示されるようになりました。これがテレビの中のことだけだったら「まだまだテレビは不親切」などといって受け流すことができるのでしょうが、雑誌やネットの記事に断然と書かれていないといけないところが、「全然」となっているのを見かけることになりました。そのうち、ほとんどが「全然」となることも“全然近い”のかもしれません。今では当たり前に使われ、辞典に載っている言葉も、間違いとされたものが使われているうちに定着してきて、正しい使い方と認識されるようになったことは多々あります。
現在の辞書を見てみると、「全然」は否定の意味だけでなく、強調の意味で使われると書かれたものもあります。さすがに肯定の意味だとは書かれてはいないものの、明治時代までは「全然」は強調の意味で使われていたという事実があります。昔、使っていたから、どちらでもよい、という考え方が正しいのかどうかには議論が分かれるところです。もしも、「全然」が肯定と否定の、どちらに使ってもよいとなると、ますます「日本語は難しい」と言われることにもなりかねません。