新型コロナウイルスに集団免疫は有効なのか

集団免疫という考え方があります。国民の一定の割合がウイルス感染すると抗体を持つ人が増えてが、それによって免疫が国民的に強化されることから、ウイルス感染を抑え込むことができるというものです。その一定の割合はウイルスによって異なっていて、新型コロナウイルスの場合には60%だとされています。日本の人口から考えると、東京都の人口に相当する感染者がいないと集団免疫によって感染対策をすることはできないということです。
実際に集団免疫によって新型コロナウイルス感染を収束ではなくて、終息させることができた国があったなら、これを例として集団免疫が獲得できる割合を推定することはできるのですが、そこまではまだ進んでいません。収束どころか拡大が続いている段階で60%というのが正しいのかどうかを判定することはできないということです。
そもそも集団免疫という考えは、感染すると抗体ができて、この抗体によってウイルスに対抗できるという発想があるからです。感染すると抗体ができることは間違いないことであっても、その抗体が新型コロナウイルスと戦うだけの能力がないことには意味がありません。エイズの場合には、抗体が作られても原因となるHIVウイルス(ヒト免疫不全ウイルス)を抑え込む能力がない抗体しか作られていません。
ウイルスを抑え込む能力がある抗体は中和抗体と呼ばれています。それに対して、抗体本来の働きをしない役なし抗体も存在しています。新型コロナウイルスによって免疫細胞のB細胞が作り出す抗体の中には役なし抗体も含まれています。しかし、中和抗体も作られていて、そのおかげで再感染しにくくなることもわかり、だから抗体を作るためのワクチンも開発されています。変異種の新型コロナウイルスの感染力が強いのは、中和抗体が少ないからかもしれません。
そもそも抗体がいつまでも効果を発揮するかも今のところは完全にはわかっていません。有効な期間が短かったら、繰り返しワクチン接種をしない限りは、免疫を強化してウイルスに対抗することもできなくなり、ひょっとすると変異種にはワクチンの効果が限定的なもので終わってしまうこともあり得るのです。