活性酸素研究の始まりは赤ワインかココアか

“活性酸素”という言葉が知られるようになったのは、赤ワインのポリフェノールからだと認識している人が多いようです。しかし、その2年前にチョコレートとココアのポリフェノールが活性酸素を消去する抗酸化作用について発表されていて、メディアでも取り上げられました。しかし、赤ワインを販売した会社のようには、ココアの販売会社が頑張らなかったことから、抗酸化の名誉を赤ワインに取られてしまったというのが食品業界に共通して知られていることです。
1995年に開催された日本チョコレート・ココア協会の国際シンポジウムでチョコレートとココアの抗酸化作用が発表されました。チョコレートの製造会社が機能性をPRしたのが、きっかけでした。メディアが相次いで取り上げ、そのおかげでココアは爆発的に売れました。機能性をPRした会社も売り上げが大きく伸びたのですが、販売額の1番は海外ブランド、2番は乳業メーカーで、PRに頑張った会社は3番目となり、頑張れば頑張るほどライバルが売り上げを伸ばすので、頑張る気力が落ちていったということを後になって、その会社の方から聞いたことがあります。
チョコレートとココアの抗酸化作用に続いて、赤ワインに含まれるポリフェノールの抗酸化作用の研究成果が国立栄養研究所(現国立健康・栄養研究所)の板倉弘重臨床栄養部長などによって1997年に発表されました。同年に『第三の栄養学』、翌年に『赤ワイン健康法』が出版されてから、テレビや健康雑誌などで赤ワインの動脈硬化予防などの機能性が大きく取り上げられたことによって、広く知られることになりました。そして、チョコレート・ココアのこと、その原材料のカカオの抗酸化力のことは徐々に忘れられていきました。
赤ワインはフランスのボルドー大学によって基礎研究が行われていましたが、それに続いて同大学ではフランスの南海岸に自生するフランス海岸松の内部樹皮に含まれるピクノジェノールの研究が始まり、抗酸化機能が確認されました。しかし、内部樹皮は量が限られることから原材料が多くあるブドウの種が注目され、その抽出成分のグレープシードオイルの抗酸化作用について報告されました。
その後には、緑茶のカテキン、魚介類などの赤い色素のアスタキサンチン、ごまのセサミン、トマトのリコピン、マリーゴールドのルテイン、カシス、ブルーベリーなど、さまざまな抗酸化成分が登場しましたが、2002年に決定的とされるコエンザイムQ10が登場しました。コエンザイムQ10は同年に医薬品成分から食品成分として用いることが許可され、抗酸化成分の代表としてだけでなく、糖質と脂質を燃焼させる補酵素として広く知られるようになり、抗酸化成分の進化は、ここで治ったと言われるようになったのです。