発達栄養学75 脂肪をおいしく感じる理由

脂肪はおいしいから食べすぎる、というのは栄養の世界では定説となっています。これは事実であるのかを確認した実験が行われました。その方法ですが、豚肉の脂身だけを切り出したものとバターを用意して、これだけを大学生のボランティアに食べてもらいました。脂肪がおいしいというなら、どこまでも飽きずに食べられるはずで、その限界を知るための実験です。
糖質が含まれた食品(ご飯、パン、麺類、菓子)ならば、その中に含まれるブドウ糖によって血糖値が上昇して脳内の満腹中枢が働くために、限界以下の量でも食べられなくなります。それに対して、脂肪は満腹中枢が働くことはないので、胃の限界まで食べられることになります。
脂肪もバターも100gずつ用意されました。脂肪が含まれた肉なら300gでも500gでも食べられるという人が、100gはクリアしたものの200gでは途中でギブアップしました。バターでは100gでもリタイア、ギブアップが続きました。その理由を聞くと、最も多かったのは「おいしくないから」という返答でした。
おいしいのは脂肪そのものではなくて、脂肪が含まれた食べ物だったということです。脂肪はエネルギー量が1gあたり約9kcalで、糖質とたんぱく質の約4kcalと比べると高エネルギー量となっています。私たちの身体は飢餓状態にも耐えられるように、効率のよいエネルギー源の脂肪を少しでも多く脂肪細胞の中に蓄積しようとして身体が働いています。
糖質もたんぱく質も摂りすぎた場合には肝臓で脂肪酸に合成され、その後に中性脂肪に合成されて脂肪細胞の中に蓄積されます。それよりも効率的なのはエネルギー量が高い脂肪を多く食べることで、糖質やたんぱく質が脂肪酸に合成されるときには20〜23%も合成のためのエネルギーとして使われます。これがエネルギーロス率で、脂質が脂肪酸に変化するときには同じようなものに変化することからロス率は3%ほどと低くなっています。同じだけのエネルギー量を摂っても、体内に蓄積されるエネルギー量は脂肪のほうが多くなっています。
その仕組みもあって、エネルギー源が不足する時代を生き抜いてきたことから、脂肪が多く含まれた食べ物をおいしく感じるように進化してきたのです。
肝臓で脂肪を合成するためにも、脂肪細胞に蓄積するためにも膵臓から分泌されるホルモンのインスリンが必要となります。糖質に含まれるブドウ糖が多く体内に入ってくると血糖値が上昇して膵臓からインスリンが多く分泌されます。そのため、脂肪と糖の両方が含まれているものを食べると、しっかりと脂肪を蓄積することができるということです。
また、血糖値が高い状態が長く続くと、エネルギー源が充分にあることから脂肪細胞に蓄積された中性脂肪が分解されにくくなります。そのために運動をしても脂肪がエネルギーになりにくく、エネルギー代謝の低下から活動も低下しやすくなるのです。