日本の伝統的な食文化というと食材と料理だけでなく、食べ方も独自なものです。今でこそ個人の食べるものの種類と量が決まっているという“お膳”は料理屋か冠婚葬祭などの儀式のときにしかお目にかからなくなりました。しかし、お膳こそ使わないものの、個人が食べるものが決まっていて、他人の料理には手を出さないのが日本人の食卓の基本となっています。これはお膳の伝統が残っている食べ方だと言えます。
お膳を使うにしろ使わないにしろ、日本人は自分が使う食器が決まっていて、手に合った食器、箸で食べています。日本以外で個人の食器が決まっているのはモンゴルなどの一部の地域に見られるだけです。食べる量は成長や年齢などによって変化をするので、それに合わせた食器を使うということで、おかずなどの量も個人に合わせてあります。だから、ご飯とおかず、ご飯と汁物という“口中調味”の食べ方によって、前に書いてきた健康維持をはかれるという優れた食文化となっています。
個々の食欲を事前に考慮して食器に入れる量を加減しているわけですが、実際の食欲は食べてみなければわからないところがあります。そこで大皿で提供して、家族で箸を伸ばして食べるという方法が登場します。コロナ禍で、外食では直箸ではなく、取り箸を使って感染防止をすることが進められていますが、家庭内では取り箸はお上品な方法になります。
大皿から食べると、個人が食べる量が制限されているわけではないので、“口中調味”の食べ方がしにくくはなりますが、自分の体調に合わせた食べ方が身についていれば、無駄に多くの量を食べるようなことはなくなっていきます。食事スタイルは中華料理のメインディッシュが大皿で、そこから好きなだけ取り分けるという形であっても、日本人のお膳文化での食べ方を思い起こして、個人の状態を把握した食べ方の健康面での効用を考える機会を設けてほしいものです。