1日2食を充実させるという話の根拠

今の前期高齢者が子どもだったときのこと、テレビで見るアメリカの生活に憧れを持ち、朝から家族が大きなテーブルを囲み、その上の豪勢な食事を食べているシーンから、アメリカと日本の違いをまざまざと見せつけられていたといいます。この朝食シーンを持ち出して、「アメリカはパンを食べていたから、ご飯だけの日本に勝った」というような馬鹿げたことを真顔で話す大人がいて、それを今でも思い出すという人は多いようです。日本食の特徴について話をする機会があると、このことを持ち出して質問してくる人も少なくありません。
日本の食事にパン食が入り込むようになってから、アメリカのような豪勢な朝食になったのかというと、そんなことはなくて、短い時間に簡単に済ますように、パン、牛乳、目玉焼き、それにハムがつけられることがあるというような内容の食事が今でも定番になっています。中にはパンもなくて、飲み物だけという例があり、厚生労働省の国民健康・栄養調査では、飲み物だけというのは朝食の欠食という扱いになっています。
朝から豪勢な食事である必要はなくて、1日に必要なエネルギーを作り出すために必要なエネルギー源の糖質と、これをエネルギー代謝するために欠かせないビタミンB群(ビタミンB₁、ビタミンB₂、ビタミンB₆、ビタミンB₁₂)が摂れる内容であれば、まずは役目を果たせると考えています。ビタミンB₁とビタミンB₂は体内で24時間ほど保つものの、ビタミンB₆とビタミンB₁₂は保持時間が12時間ほどしかないので、朝食と夕食の内容は重要です。
このような生理学的な話だけではなくて、情緒に訴えかけることも重要と考えて、1日に2食を食べる歴史的な話もしています。ヨーロッパの食事は基本的に朝食と夕食が主で、昼食は軽食としています。日本で1日3食が定着したのは江戸時代中期のことでした。武士や貴族は昼食も食べていたものの、庶民は、それまでは朝食と夕食だけで、空腹を感じたときに少し腹に入れるという状態でした。日本の食事の神様というと豊受大御神ですが、伊勢神宮の外宮の御饌殿に朝夕2回、内宮の天照大神の食事である神饌をお供えする日別朝夕大御饌祭が行われています。これをもって神世の時代から食事は朝食と夕食と言い切るのは後ろめたい気持ちもありますが、朝食と夕食が重要であるとした日本人の食事の歴史を今に残していることには間違いがありません。