学習障害107 運動が学習障害の改善に役立つ理由

運動をすることは酸素を体内に多く取り入れて、この酸素が脳に送り込まれることによって脳細胞の働きがよくなると説明されています。脳細胞は酸素を利用して、エネルギー源となるブドウ糖からエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)が作り出されています。酸素不足ではエネルギー代謝も盛んにならないということですが、脳細胞の唯一のブドウ糖は飲食でブドウ糖が含まれる糖質を補っておけば、それで脳細胞にスムーズに取り込まれるというわけではありません。取り込まれるための条件をクリアする必要があります。
脳細胞に限らず、全身の細胞にブドウ糖を取り込む働きをしているのが膵臓から分泌されているホルモンのインスリンです。インスリンは血液中のブドウ糖が増えた血糖値が高い状態になると多く分泌されるようになります。では、血糖値が低い空腹時にはブドウ糖が取り込まれないのかというと、インスリンが分泌されない状態でもブドウ糖が必要な状態になったときには、積極的にブドウ糖を取り込む仕組みが身体には備わっています。それはAMPキナーゼという酵素を使った方法です。
インスリンによってブドウ糖が取り込まれるのは細胞の奥にあるGLUT4という輸送体が細胞膜に近づいてくるからですが、GLUT4はAMPキナーゼによっても移動します。ATPからリン酸(P)が一つ外れたADP(アデノシン二リン酸)になるときと、ADPからリン酸が一つ外れてAMP(アデノシン一リン酸)になるときに細胞内でエネルギーが発生しています。AMPが多く発生するということはブドウ糖が使われて減ったということで、細胞にブドウ糖を補わなければなりません。そのために働くのがAMPキナーゼで、運動をしてブドウ糖が使われると細胞の取り込みが進むようになります。
運動をすると脳細胞に酸素が多く取り込まれるようになり、同時にAMPキナーゼが働くようになって、脳細胞にブドウ糖が多く取り込まれて、脳細胞のエネルギー代謝が高まるという仕組みになっています。運動といっても激しい筋肉運動をする必要はなくて、早歩きを10分くらいするだけでも効果があります。ただし、運動の前にブドウ糖が含まれる甘いものを食べていると血糖値が上がり、細胞にブドウ糖が多い状態になっているのでAMPキナーゼが働きにくくなります。そこで、先に運動をして、勉強をする前にブドウ糖が含まれる甘いものを少し摂るというタイミングが大切になります。