長寿村と言われた山梨県の棡原村(現在は上野原市棡原)ですが、長寿研究の調査が入ったことで、長生きの理由が複数発表されました。その中で有力とされたのが腸内細菌の状態でした。棡原の高齢者の腸内細菌のバランスは、他の地域とは大きく違って、若者と変わらないくらいに善玉菌の割合が高く、悪玉菌の割合が低くなっていたことから、その研究が盛んに行われました。
腸内細菌は若いときには善玉菌が多く、年齢を重ねるほど善玉菌(特にビフィズス菌)が減り、その分だけ悪玉菌が増えていく、それで便通が悪くなるというのが高齢者の通常のパターンとなっています。棡原の高齢者は善玉菌の中でもビフィズス菌が多く、都会の成人並みの割合となっていました。ビフィズス菌が多いのは食物繊維の摂取量が多いことが影響していると言われています。1日の食物繊維の摂取量は男性で19g以上、女性で17g以上とされています。ほとんどの年代で、これを下回っていますが、当時の棡原では28gを超えていました。
善玉菌はエサになる栄養源を食べて活動をして増殖しています。そのエサになるのは糖類と食物繊維です。食物繊維は胃では消化されず、腸から吸収もされないものですが、大腸内では腸内細菌によって分解され、糖質となります。この糖質がエサとなります。乳製品も善玉菌のエサとされますが、実際にエサとなっているのは乳製品に含まれる乳糖です。これらの成分を摂るのは大切ですが、悪玉菌を増やすエサを減らすことも大切です。
腸内細菌の総数は約1000兆個とほぼ決まっていて、善玉菌が増えると悪玉菌が減り、逆に悪玉菌が増えると善玉菌が減るという関係となっています。悪玉菌のエサとなっているのは動物性のたんぱく質と脂肪です。これを知ると、和食は善玉菌が増えやすく、洋食は悪玉菌が増えやすくなっていることがわかります。
善玉菌の中でもビフィズス菌の数と量が腸内環境を整えるためには重要となりますが、ビフィズス菌の割合は生まれた地域によって特徴があります。腸内細菌は生まれてすぐのときには腸内には存在せず、母親や産科の関係者から伝えられています。生まれた地域から移動しない人はビフィズス菌の割合が似通ってることから、移動が少ない地域で食環境がよい高齢者はビフィズス菌が多いことになります。棡原の例だけでなく、腸内細菌のバランスがよい人が多い地域では、その状態が伝統的に伝えられていくこということで、長寿地域の研究には腸内細菌の研究も必要だと言えます。