目指すのは糖質制限ではなくロカボのダイエット

「制限」という言葉は限界を定めることで、禁止することではありません。限界を定めるということは、それを超えたことをやってはいけないという意味であるはずですが、限界を超えるどころか、まったくやめてしまうことを制限と勘違いしている人もいます。その一番ともいっていい例が「糖質制限」です。本来の意味で言えば、食品に含まれる糖質を摂りすぎないようにする、減らすようにすることを指しています。それなのに、糖質が含まれる主食(ご飯、麺類、パンなど)を食べないように指導するどころか、糖質が含まれた調味料も禁止という極端な指導をしている専門家までいます。その専門家がダイエットのスポーツジムであったら「短期間で結果を出すためのことなので仕方がないか」と思わないではないのですが、医療機関の医師となると何を言っているのか、どんな指導をしているのか注目しないわけにはいかなくなります。
糖質というのは炭水化物から食物繊維を除いたものをいいます。食物繊維は消化も吸収もされない特徴があり、炭水化物から食物繊維を取り除いた糖質は胃で消化され、小腸から吸収されて血液中に入ります。この糖質は分解されてブドウ糖や果糖、乳頭などとなりますが、糖質制限でターゲットとされているのはブドウ糖と果糖です。血液中のブドウ糖は血糖といい、この量を示すのが血糖値、血糖が増えた状態が高血糖となります。血糖値が上昇すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。
インスリンには大きく二つの働きがあり、一つはブドウ糖を細胞の中に取り込むことで、取り込まれたブドウ糖は燃焼してエネルギーとなります。もう一つの働きは肝臓で合成される脂肪酸を多く作らせることで、脂肪酸は結合して中性脂肪となり、この中性脂肪が多く作られると脂肪細胞の中に蓄積されます。蓄積量が多い人が太っているということです。果糖は効率的に肝臓で中性脂肪となっていくので、果糖の摂りすぎも太る原因となります。
こういった仕組みを知ると、糖質制限をしたくなる人が出てくるのも当然のように思われます。糖尿病の人はなおさらで、血糖値が上昇するのは糖質のブドウ糖なので、糖質を摂らなければ血糖値が上昇しなくなり、血糖値が下がったことで糖尿病が治ったと診断されることがあるからです。このことを前面に出して、「糖質を摂らないことが糖尿病治療の切り札」とまで言っている医師もいるのですが、ブドウ糖は即座にエネルギーになる効率がよいエネルギー源なので、ブドウ糖不足は全身の細胞に影響を与えることになります。全身の細胞のエネルギー源は糖質、脂質、たんぱく質で、これらは三大エネルギー源と呼ばれていますが、脳だけが例外で、脳はブドウ糖の他はエネルギー源とすることはできません。
糖尿病の人は、ブドウ糖を細胞に取り込む力が大きく低下しているので、細胞に必要なブドウ糖が不足した状態になります。それなのに糖質が含まれたものを食べない、極端に減らすということをすると健康維持に必要なブドウ糖どころか、生命維持に必要なブドウ糖も摂れなくなってしまいます。だから、糖尿病になったら、むしろ糖質を摂って、細胞の中でブドウ糖を燃焼させてエネルギーを作り出すことが求められるようになります。
そこで実践したいのは糖質制限ではなく、ローカーボンダイエット、いわゆる「ロカボ」です。カーボン(carbon)は糖質、ロー(low)は低いなので、低糖質となります。糖質の摂取量は少なくしても、必ず摂るという意思表示の言葉です。実際に、どのくらいの量を目指すのかというと、1日の食事では平均300g程度のご飯を食べていますが、これは茶碗で2杯分に相当します。エネルギー量では約150kcalで、3分の1ほど減らすと100kcalになる計算です。そこでロカボで目指すのは、この量としています。
ロカボダイエットのメリットは、ご飯を減らす以外は、おかずは好きなものを腹が満たされるまで食べてよいということです。このように一般には言われていますが、脂肪が含まれた食品は夕食ではなく朝食か昼食で摂るようにして、1日の野菜の摂取量は厚生労働省が推奨する350gは食べるようにしてほしいということを講習などで話しています。