ピッチャーが投げる前からバッターはバットを振り始めている

野球でバッティングの指導をするときに「球をよく見ろ」と指導する人がいます。これは当たり前のことのように思われます。何しろ球を見ることなしにバットを振って、当てて飛ばすことはできないと考えられているからです。打撃の神様と呼ばれた名選手の残した言葉に、「球が止まって見える」という名言があります。球が止まって見えただけでなく、ボールの縫い目まで見えたという逸話も残されています。それくらい、しっかりと球を見て、打つようにとコーチは指導をするときのネタとして多用しています。
しかし、しっかりと見たとしても、見てからバットスイングを始めたのでは絶対にバットで的確にボールを捉えることはできません。ピッチャーがボールを手から離してからキャッチャーが捕球するまでの時間はプロの場合には0.4秒でしかありません。その前にバッターはバットに当てなければならないので、わずかな差かもしれませんが、とにかく短すぎる時間でバットに当てて、ヒットにしなければなりません。
これに対して、目で捉えた情報を脳に伝達して、反応を起こすためにかかる時間は0.5秒です。この差は何を示しているかというと、ボールが指先から離れる瞬間にコースを見極めて、それから反応が起こっても、これだけでボールはキャッチャーミットに届いてしまうのです。投球の姿勢から、ボールが離れる直前にコースを読むことができたとしても、脳が指令を発してからバットを振るなら、そこからボールのコースにバットを届かせるまでにも、わずかであっても時間がかかります。
ということは、ピッチャーが投球する前にボールのコースを読んで、バッティングポイントまでの時間も予測して、バットの軌道まで決めて振っていることになります。バッターが先に意識をして、それに続いてピッチャーが行動を起こしているというわけですが、このことは前回の意識が事件・事故を起こしていて、これを本人は無意識で行っていると思い込んでいるということの証拠の一つとして紹介させてもらいました。