健康寿命延伸のための提言48 提言のエビデンス7感染症2

国立高度専門医療研究センター6機関(国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター)が連携して、研究成果として「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」を公開しています。提言のエビデンスの解説(第2回)を紹介します。
日本人の中高年のピロリ菌感染率は非常に高く、胃がんである人にも胃がんでない人にもピロリ菌の感染者が多くいることが報告されています。感染時期は5歳くらいまでとされ、糞便などを介して感染すると考えられています。日本では、戦後、衛生環境が劇的に改善され、出生の時期によって感染率が大きく異なっています。日本人健常者の研究を統合したメタ分析では、1940年代頃までの出生世代で70〜80%ぐらいと感染率が高く、1950年代以降の出生世代については、出生年が遅くなるほど、感染率が低下し、2000年以降の出生率では10%未満になっています。
ピロリ菌感染は胃がんの最大のリスク要因であることが知られています。ピロリ菌感染と萎縮性胃炎の組み合わせによる胃がんリスクをみると、胃がんになるリスクは、ピロリ菌と萎縮性胃炎の両方陽性の場合で11倍、さらに萎縮が進行したと考えられる萎縮性胃炎が陽性でピロリ菌陰性の場合では15倍高かったことが報告されています。ピロリ菌に感染している場合は、除菌ならびに定期的な胃がん検診を受診することが推奨されています。
ピロリ菌除菌療法による胃がん予防効果を示唆する研究成果が蓄積されてきていますが、除菌後であっても胃がんが発生するケースもあるため、定期的な検査の継続が必要といわれています。また、ピロリ菌除去療法によって生じる可能性のある皮膚症状や他の疾病への影響などの副作用による不利益に関する情報は不足しています。除菌療法を選択する場合は症状や胃の詳しい検査をもとに、かかりつけ医に相談することが推奨されています。2014年にIARC/WHOによる専門委員会は各国の医療優先度、経済効果などの事情に応じたピロリ菌検査や治療などを含むピロリ菌対策を講ずるよう勧告しています。その対策は、実施可能性、効果、副作用について考慮された妥当な方法で実施されるべきであると指摘しています。