半分赤くて半分青いトマトの話

セミナーで抗酸化成分の話をするときに、トマトのリコピンを例にあげるようにしています。リコピンはトマトに豊富に含まれている赤い色素で、トマトの色が濃いものほどリコピンの量が多く、活性酸素を消去する作用が強いことになります。熟したトマトは色が濃くなるのですが、熟す前でも熟してからも、あまり変わらない種類もあります。それは桃太郎です。桃太郎といっても岡山県で誕生したわけではありません。
1985年に完熟トマト桃太郎というネーミングで発売されましたが、それ以前のトマトはというと半分赤くて半分青いという状態で収穫して、店頭で赤くなるというようにして販売していました。色の変化が遅くなると、店頭でも半分赤くて半分青いものが並び、それがトマトの常識と感じていた人もいました。どうして半分赤くて半分青いものを並べていたのかというと、赤くなるまで成長させると輸送途中や店頭で傷んでしまい、売れなくなるからです。
そこで種苗メーカーが、まだ半分赤くて半分青い状態でも色づいていて、しかも硬くて傷みにくい、そして甘いという品種を開発して、ピンク色のイメージと子供に食べてもらいたいという思いも込めて桃太郎と命名されました。もともとがピンク色の品種なので真っ赤というわけにはいかず、リコピンはミニトマトに比べると少なくなっています。甘い分だけ、酸味が少なく、トマトソースには使えにくいと言うシェフもいます。桃太郎の登場以降は、半分赤くて半分青いというのは伝わらなくなっています。これがわかる人は、年齢がバレてしまうという状態です。
半分赤くて半分青いというキーワードを話したときに、トマトの話であることに気づかなかったのか「カスタネットのことですか」と聞いてきた人がいました。高齢社会を反映してか、こんな質問が出ることもあります。そんなときでも狼狽えずに、印象に残る話をしています。そのことを思い出すたびに、トマトのことも思い出してほしいからです。カスタネットが日本の音楽教育に使われ始めたときには、男子用の青いカスタネットと女子用のカスタネットが使われていましたが、製造元が管理が面倒だからと青と赤を組み合わせたものを販売したのがきっかけです。色は音には関係がないのに、今でも青と赤が変わらずに使われています。
こんな話をしたあとに、「トマトは半分青いと言いましたが、緑色なのに、なんで青色というのか」という話をすることがあります。聴衆の誰かが正解を話してくれるのを期待してのことですが、日本では古来から緑色を青と呼ぶ習慣があり、青菜、青々とした緑といい、それが信号の緑色を青色と呼ぶ習慣につながっています。奈良時代までは日本の色彩表現は赤、青、黒、白だけで、緑は青の範疇だったので、特に問題なしに青と呼んでいたということです。