大腸で活躍するのは乳酸菌ではなくてビフィズス菌

乳酸菌を摂っても便通はよくならない、ビフィズス菌を摂らなければ大腸の状態はよくならない、ということをビフィズス菌の健康食品やヨーグルトを販売している会社はPRしています。それは事実で、テレビの健康を扱ったバラエティ番組でも医師や栄養士などが話をしていることもあって、一般にも知られるようになってきました。どのような事実なのかというと、乳酸菌は小腸でほとんどが棲息していて、大腸で主に棲息しているのはビフィズス菌だということです。だから、便通をよくするためには大腸で活躍するビフィズス菌を摂るべきで、乳酸菌を摂っても効果がないということが言われます。また、腸全体の健康を考えるなら乳酸菌とビフィズス菌の両方を摂るべき、ということを医師も栄養士も、もちろんメーカーも話しています。
バラエティ番組では時間が限られていることもあって、小腸では乳酸菌、大腸ではビフィズス菌ということは伝えられても、なぜかという理由については伝えられていません。少しだけ話題として取り上げていた番組もありましたが、乳酸菌とビフィズス菌は棲息できる環境が異なっているのが大きな理由です。乳酸菌は酸素がある環境で棲息します。腸は全体が9mほどあり、そのうち75%ほどは小腸が占めています。酸素は胃から十二指腸を通って、長い小腸を通過しているうちに、だんだんと薄くなっていきます。薄くなっても酸素がある限りは、乳酸菌は棲息することができます。
これに対してビフィズス菌は酸素がない環境で棲息するので、小腸にはほとんどいなくて、酸素がない大腸で棲息することができます。実際に小腸と大腸の中の腸内細菌を測定すると、まったくいないわけではなく、小腸の奥の方にはビフィズス菌がいることもあり、大腸の初めの方に乳酸菌がいることもあるものの、大きく影響することはないので、小腸は乳酸菌、大腸はビフィズス菌と分けて語られています。
ビフィズス菌を摂ることは大腸がんを防ぐためには有用と考えられていますが、ビフィズス菌が多く棲みつくことができる大腸には大腸がん多く発生しています。それに対して小腸がんは大腸がんと比べると1000分の1ほどの発生率でしかありません。その事実を見ると、乳酸菌のほうが発がんを抑えることができるのではないか、との考えも出てきます。「小腸がんが少ないのは乳酸菌のおかげですか」と、その理由を問い合わせてきたテレビのディレクターに対して、「通過時間が短く、粘膜細胞の入れ替わりが早いから」と話しました。
小腸は長いのに通過にかかる時間が短くなっています。そのために有害物質が入ってきても腸壁の粘膜に触れている時間が短く、がん化しにくいことがあげられます。もしもがん化を進める強力な物質が粘膜に残ったとしても小腸の粘膜細胞は3日ほどで脱落して新しい粘膜細胞に入れ替わっています。これが小腸がんが極めて少ない理由と考えられています。