学習障害18 書き写しは脳の多彩な機能を使う高等作業

読み書きが苦手な学習障害児の多くは、文字を書き写すことが苦手です。書き写す漢字が示されたら、その漢字を読んで、次に漢字を記憶して、書き順に従って漢字を筆記していきます。見たものを、そのままアレンジなしで書き写す、いわゆる丸写しですが、一般には簡単がことと認識されています。しかし、実際には見たものの形を覚えて書き写すという記号の複写のような作業をしているわけではありません。
目で見た漢字を、声を出すか出さないかは別として言葉(音声)にして、その言葉を漢字に変換して書くという作業をしています。しかも、漢字を一つひとつではなく、複数の漢字を組み合わせて、一つの言葉にして覚えて、その言葉の意味を理解して漢字を書くという高等な作業を行っています。さらに漢字だけでなく、ひらがな、カタカナ、数字が加わり、学習が進んでいくと英文字がプラスされて、そのすべてを理解した上で書き写すことになります。これが日本語の特徴であり、複雑な記憶の経路を使って復元作業をしているのです。
発達障害の一つの学習障害の場合には、文字そのものが覚えられない識字障害、覚えたとしても書けない書字障害があり、短時間の記憶時間であっても変換に戸惑うことがあります。識字障害と書字障害では、この作業が不可能ということではなくて、認知機能に問題がなければ読んで書くという書き写しを繰り返すことによって、読み書きの総合力を高めていくことができます。
繰り返すというと、続けて長い時間の取り組みが行われがちですが、発達障害の学習障害の場合には集中することが苦手で、長く続けるほど負担が急激に高まっていくことになるため、1日に10分以内で済む分量にして、期間をかけて書き写しに慣れていくことが大切になります。それぞれの子どもによって認知の特性、つまり引っかかりやすいところが異なっていることから、苦手な部分には時間をかける、アドバイスを丁寧にするといった心遣いも必要になってきます。