発達栄養学15 エネルギー代謝の中心のミトコンドリアの役割

全身の細胞の中で作り出されるエネルギーは身体を動かすだけでなく、脳の機能、神経伝達にも使われます。それぞれの細胞で作り出されたエネルギーは、その細胞の中だけでしか使われないので、全身の機能を高めるためには、全身の細胞のエネルギー代謝を高める必要があります。
人間の身体は60兆個以上の細胞からできています。それぞれの細胞の中にはミトコンドリアというエネルギー生産の小器官があります。ミトコンドリアは糸(ミト)粒子(コンドリア)を意味するギリシャ語で、直径1μm(マイクロメーター)のサイズで、1つの細胞には100個から3000個のミトコンドリアが存在しています。ミトコンドリアの重量は体重の10%ほどとされ、体重50kgの人では5kgのミトコンドリアを持っていることになります。
ミトコンドリアが特に多く存在しているのは筋肉細胞で、多くのエネルギーは筋肉細胞で作られています。骨格筋など筋肉が多い人ほど代謝が高まって、太りにくく、やせやすいというのはミトコンドリアの数にも関係しています。
食事で摂取する三大エネルギー源の糖質、脂質、たんぱく質は、体内ではブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸となって細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアの中にあるTCA回路によってエネルギー物質のATP(アデノシン三リン酸)に変換されています。ATPは、アデニンという化合物にd‐リボースという糖が結合したもので、アデノシンに3分子のリン酸がつながったものがATPです。リン酸の結合部位にエネルギーが保持され、ATP分解酵素によってリン酸が切り離されるときにエネルギーが発生します。ATPから1分子のリン酸が切り離されてADP(アデノシン二リン酸)になるときに、約10kcalのエネルギーが発生します。
60兆個以上の全身の細胞は、すべてミトコンドリアで産生されたATPを生命維持や活動などのためのエネルギーとして利用しています。ミトコンドリアの量が多いほど、ブドウ糖や脂肪酸などを使ってATPが多く合成されることになり、基礎代謝量が多くなっていきます。そのため、ミトコンドリアを増やすとともにミトコンドリアの働きを高めることが代謝を高める基本となります。
ミトコンドリアを増やすためには、ミトコンドリアが多く存在する筋肉が活発に動いてエネルギー代謝が盛んになることが必要となります。筋肉運動は白筋(速筋)が主に使われる無酸素運動と、赤筋(遅筋)が主に使われる有酸素運動に大きく分けられますが、ミトコンドリアは酸素を取り込んでエネルギー代謝を行うことから、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を定期的に行うことで増やすことができます。ミトコンドリアによって産生されたATPが活動のために足りているときにはミトコンドリアは増えにくくなっていますが、運動によってATPが不足すると、ATPを増やすためにミトコンドリアの分裂が始まります。このことから、ミトコンドリアの数を増やすためには、ATPが多く使われるように息切れするほどの速度で早歩きするなどの身体に負荷がかかる有酸素運動がすすめられます。