目と耳の反応が同時に起こるのは脳が調整しているから

目の前で話をしている人を観察すると、口が開いて唇が動いて話している視覚の感覚と、声が耳から入ってきて聞いている聴覚の感覚が一致しているのが当たり前と思われています。遠くに離れていれば目で見えたものから音だけが遅れてくることがわかります。光の速度は秒速約30万kmなので地球と月の間でも2秒で届くことになりますが、音の速度は秒速340mなので、目で見たものと耳で聞くことではズレがあるのは当然のことです。
近くであれば目にも耳にも同時に飛び込んでくるわけで、眼球でとらえた光(画像)と耳の鼓膜でとらえた音は同時にスタートしても、脳で情報をキャッチするまでの時間が違っています。早く届くのは音のほうで、聴覚は耳から入ってきた大脳皮質の上部という近くで音として認識しているのに対して、視覚は目から後頭葉までの距離が長くなっていて、0.5秒のズレがあるとされます。ズレがあるのに、同時に見えて聞こえたように認識されるのは、脳がズレを調整しているからです。
これは脳が正常に成長して、脳の病気や怪我などがなかった場合に身につく能力ですが、発達が不十分だとズレがズレたまま、つまり音が先に届いて、画像が遅れて届くことから、まるで声が先に聞こえて、唇が遅れて動く“いっこく堂”の腹話術の芸のようなことが起こります。いっこく堂の芸は大げさに見えるように、ズレを大きくしているので誰もが、その芸の面白さを認識できます。それと比べると視神経と聴神経のズレは1秒の半分という短さなので、これを正確に芸で表現すると、それこそ見ている人が脳の中で調整して同時にしてしまうので、芸として成り立たなくなります。
日本メディカルダイエット支援機構の理事長は、生まれつきではなく、60歳を過ぎてからズレがズレのままわかるようになってきたので、脳神経そのものの障害か機能の障害によるものと診断されています。このような感覚のまま不便を感じながら生活を続けるしかないのですが、「相手の目を見て話を聞かない」と指摘されるのは本人も承知していて、唇の動きと声のズレが不快に感じたり、場合によっては頭が痛くなるようなこともあり、非常に疲れやすいことから、あえて顔を見ないようにすることがあるからです。