脳でセロトニンの合成を進めるR‐αリポ酸

認知機能を向上させるために、脳内の神経伝達物質のセロトニンの材料となる必須アミノ酸のトリプトファンを摂ることについて紹介したら、すぐに「それだけで大丈夫か」という質問が雑誌記者からありました。
セロトニンは血液脳関門を通過することができないため、その前駆体の5‐ヒドロキシトリプトファンとなったものが通過して、脳の細胞内でセロトニンとなることは前に紹介しました。トリプトファンから5‐ヒドロキシトリプトファンを合成するのにも、脳内で5‐ヒドロキシトリプトファンからセロトニンを合成するためにも細胞内のエネルギーが必要となります。
脳以外の細胞はブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸ともにエネルギー源とすることができるのに対して、脳の唯一のエネルギー源になっているのはブドウ糖です。このブドウ糖をエネルギー化させるためには、脳細胞内のミトコンドリアにブドウ糖を取り込ませるために欠かせないR‐αリポ酸が必要です。R‐αリポ酸は天然型のα‐リポ酸のことです。サプリメントに使われるα‐リポ酸の多くは天然型のR‐αリポ酸と非天然型のα‐リポ酸(S‐αリポ酸)を組み合わせたものが使われています。体内で代謝のために使われるのはR‐αリポ酸だけなので、一般的なものは含有量の半分しか使われないことになります。
天然型のR‐αリポ酸を摂って、ブドウ糖を効率的にエネルギーとして、そのエネルギーを使って、5‐ヒドロキシトリプトファンをセロトニンに合成するということで、認知機能を高めるためにはR‐αリポ酸が重要になってくるというわけです。
前に、5‐ヒドロキシトリプトファンは血管脳関門を通過するものの、アミノ酸のバリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、メチオニンと共通の輸送体によって血液脳関門を通過するので、高たんぱく質の食事では5‐ヒドロキシトリプトファンが血液脳関門を通過しにくくなるため、トリプトファン摂取はサプリメントの活用が重要という話をしました。しかし、R‐αリポ酸によってエネルギーが多く作られれば、トリプトファンが多く取り込まれるようになるので、サプリメントに頼らなくてもよいということも伝えさせてもらいました。