自閉症スペクトラム障害に脳の特定領域の活動不全

発達障害の自閉症スペクトラム障害は、原因や治療法は確立されていないため、高い知能を有する人でも社会生活に困難をきたしやすく、せっかくの能力が発揮されないという現状があります。東京大学大学院のグループは、対人コミュニケーションの障害に特徴的な認知パターンを実証したと発表しています。
自閉症スペクトラム障害の当事者は、他者が自分に対して友好的か敵対的かを判断する際に、顔や声の表情よりも言葉の内容を重視する傾向があることと、その際に内側前頭前野と呼ばれる脳の場所の活動が有意に弱いことを初めて示しました。この内側前頭前野の活動が減弱しているほど臨床的に観察されたコミュニケーションの障害が重いことを示しました。
自閉症スペクトラム障害の当事者は、他者の意図を直感的に汲み取ることが苦手なため、冗談や皮肉のような顔や声の表情と言葉の内容の食い違う表情に接した場合に、この障害が顕著になることが知られていました。しかし、この経験的によく知られた現象を実証した研究は少なく、この障害に、どのような脳の仕組みが関与しているのかは明らかではありませんでした。
自閉症スペクトラム障害と診断された15名の成年男性と、比較対象として自閉症スペクトラム障害当事者と知的能力や生育した経済的環境に差がなく、精神障害のない17名の成年男性が参加しました。参加者には短いビデオを見てもらい、俳優が参加者に言葉の内容と言葉を発する際の顔や声の表情から、その俳優が参加者にとって友好的に感じられるか敵対的に感じられるかを判断してもらいました。参加者の脳活動の変化はMRIで測定されました。
対照群では非言語情報を重視して他者判断する機会が多いことがわかり、その際に内側前頭前野などの他者の意図や感情の理解、曖昧なものの判断に関わることが知られていた脳の場所が強く活動していました。それに対して自閉症スペクトラム障害の当事者の群では非言語情報を重視して代謝判断する機会が減っていました。また、不安や恐怖といった驚異的な刺激に対して反応する扁桃体の活動は増強されるものの、対照群で強く活動していた内側前頭前野などの活動が減弱していることがわかりました。